大きな試練を乗り越えた若武者が、確かな手応えをつかみ始めている。育成外野手・小針大輝は、大怪我や環境の変化に揉まれながらも、実戦の中で自らのスタイルを模索。3年目の支配下登録に向け、着々と歩みを進めている。
◆ 指揮官が明かした「武者修行」の真相
シーズン中、小針は実戦機会を求めて独立リーグ・栃木ゴールデンブレーブスへと派遣された。二軍を率いる村田修一監督は、以前プレーした古巣へ小針を武者修行させた背景を明かす。
「小針はゲームでも使いたいんです。でも支配下の選手で先に使わないといけない選手がいて、打席数が確保できない。週に1回とか、出られても2回しか打席に立てない。でも、立ったら3割くらい打ってるんですよ。毎回使うことができないならば、派遣してしっかり出場できた中で結果を残してくれば、こっちでも来年使えるはずですから」
NPBとは異なり、道具の準備から球場の片付け、ボールボーイやバッティングピッチャーまで選手自身がこなす独立リーグの環境。小針自身も「普段やらせてもらっている環境がいかに恵まれているのかを改めて感じました」と、実戦機会だけではなく、野球に対する姿勢をさらに深く見つめ直すきっかけとなった。
◆ 指揮官を唸らせた復帰後の爆発力
大怪我から復帰した小針は、栃木での実戦を重ねる中で、打撃における“ある開眼”を果たした。
26打数12安打、打率.462。そのうち二塁打6本、三塁打1本で、長打率は.769。さらに四球を15個選び、出塁率は.659。OPSは脅威の1.428をマークした。
「打てた要因としては、リハビリの時から取り組んできたものが自分の中で形となったことと、打席の中での“力感”を掴めたのが大きいと思います。これまでは試合になると気持ちが入って全力で振っていたのですが、それだとコントロールするのが難しくミスショットや空振りが多くなってしまっていました。その中で『少し力を抜いて振ろう』と意識して入った打席でフェンス直撃の打球が出て、これが掴むきっかけとなりました」
試合に出られないもどかしさの中でも「目先のことだけではなく来年以降につながるようにと思いながらやっていました」と愚直に己と向き合った時間が、結果として大きな成長につながった。
試合に出られないもどかしさの中でも「目先のことだけではなく来年以降に繋がるようにと思いながらやっていました」と愚直に己と向き合った時間が、結果として大きな成長につながった。
しかし、その道のりは平坦ではなかった。
プロ入り直後には、右有鉤骨骨片切除手術を受けた。リハビリを経て5月にファーム公式戦デビューを果たしたものの、プロとしてのスタートから決して順風満帆だったわけではない。
そして2年目の今年、再び大きな試練が訪れた。
6月11日にバントを試みた際、内角球が顔面を直撃してしまった。あごを骨折し、プレートを入れる手術を敢行。しばらくは流動食での生活を余儀なくされた。
「怪我した時は、離脱することに対する不安と焦りでいっぱいでした。今もまだ右顎の辺りは感覚が鈍いですが、生活に支障はありません。復帰してボールが怖くなったとかは特にありませんでした。なによりも動けなかった時間が辛かったので、復帰できたときには野球ができている楽しさでいっぱいでした」
プレーできる喜びがトラウマを上回り、再びグラウンドへ戻ってきた。
村田監督もその姿に感嘆の声を漏らす。
「重傷でしたからね。顔面にボールを受けましたから。でもそこから立ち直って打率5割くらい打ってましたからね」
2度の手術を乗り越え、さらに栃木への派遣を経て打ちまくる若武者の姿に、指揮官の評価は決定的なものとなった。
「栃木でバッティングが通用するんだったら、ある程度こっちでも通用する。使うに値する数字を持ってきてくれたので、来年は勝負の年。(今年支配下になった)高見澤(郁魅)のような成功例にのっけたいなと考えてます」

◆ 思い切りの良さと先輩・勝又温史の背中
村田監督が小針の最大の魅力として挙げるのは、何よりもその思い切りの良さだ。
「怖がらずに、やっぱバット振れるのはいいと思います。自分のタイミングで空振りを恐れずに思い切って振れる。左ピッチャーでも顔面にボールを当てちゃうくらいだから怖がらないし、踏み込んで打つっていうのができる選手。その姿勢の部分を僕は1番大事にしてるんで」
本人の自己分析も、この指揮官の見立てと完全に一致している。
「僕の長所は思い切りの良さだと思っています。器用にこなしていくタイプではないので、自分から仕掛けていこうといつも思っています」
泥臭くバットを振り続ける小針を、陰で支えてくれたのが日大鶴が丘高校の先輩・勝又温史だった。
「勝又さんはすごく優しくて、一軍で戦いながら忙しいのにも関わらず、僕が手術になった時など何かある度に連絡をしてくれました。勝又さんが一軍で活躍している姿を見て、勇気をもらっています。一緒に一軍の舞台で野球ができるようになりたいです」
二軍がファーム優勝を果たした際も「貢献することができなくて悔しいと感じた」と勝負師としての本音を吐露した小針。
「1年目から練習も試合もバットを強く振れるし、とにかく一生懸命やっている。やれと言ってついてこれる人間は、成長する可能性が大いにある」と語る村田監督の期待を背負い、一皮むけた背番号155の視線は、すでに勝負の来季へと向けられている。
「まず来年支配下を勝ち取ることが今の目標です。まだまだやる事は走攻守すべてにおいてたくさんあるのですが、まずはバッティングでアピールしたい。試合での対応力を上げ、確実性を磨いていきます」
試練を乗り越え、武者修行で手に入れた理想のスイング。監督と先輩の期待を胸に、3桁背番号を卒業する挑戦が、ここから本格的に始まる。
取材・文 / 萩原孝弘