今季の梶原昂希の足跡を振り返るとき、その大半はファームの拠点である横須賀の地に刻まれてしまった。
一軍で28試合に出場し打率.203に留まる一方で、ファームでは49試合に出場して打率.319という確かな数字を残した。この一軍での壁と、二軍で積み重ねた高打率というコントラストの裏には、今季ならではの深い葛藤と変革があった。
飛躍を誓って迎えたシーズンだったが、春先にインフルエンザで離脱を余儀なくされた。その間にファームで長くともに汗を流してきた勝又温史がファームから一軍へと駆け上がり、見事なブレイクを果たした。目の前で仲間が光を浴びる中、自身は不本意な離脱に甘んじる苦しい時間が続いた。
「嬉しい反面、やっぱり悔しさはありました」勝又の頑張りや取り組みはファームで長く一緒にやったからこそよく分かる。だからこそ梶原の胸には複雑な心境が去来していた。
◆ 打撃を変える決断
ライバルは多いベイスターズの外野手争い。一軍キップは罹患によって奪われた。しかしこの離脱期間を単なる調整で終わらせなかった。
「キャンプでは良かったのですが、オープン戦終盤辺りからちょっと合わなくなってきていて。変えるならこのタイミングしかない」
生じていた打撃のズレを修正するため、フォームの抜本的な見直しを決意した。「インフルのおかげではないですけれども、今のバッティングの感じを掴むことへの取り組み方ができました。今ではいい方にとらえています」と、本人は前向きにその日々を振り返る。
横須賀で取り組んだのは、スケールの大きな打撃フォームへの脱皮だった。
「わかりやすく言うと、牧さんみたいなイメージに変えました。メジャー流みたいな感じですね」
今年途中からモデルチェンジし、自己最多の30ホームランを放った牧秀悟に倣い、引っ張ることを意識し、力強いスイングを可能にする身体の使い方や各種ドリルを取り入れた。
さらに「ウエイトもちょっと好きじゃないですけど、やるようにして……」と苦笑いしながらも、体幹と筋力を強化することにも真摯に向き合った。
元々189センチの体躯から放つ打球は、力強かった。原点を見つめ直すとともにブラッシュアップを続け、結果を出すというよりは、自分の打ち方を固める作業として、日々の試行錯誤を愚直に繰り返した。
その成果はシーズン終盤になって少しずつ形になり、8月アタマに.276だった打率から最後は.319まで引き上げ、打撃の安定感へと結びついていった。

◆ 日本シリーズでの大抜擢
その地道な横須賀での取り組みが、思わぬ大舞台で実を結ぶことになる。日本シリーズの舞台でスタメン起用を勝ち取ったのだ。しかも、任されたのは「5番」の大役だった。最初は「マジか、やばいな」と思ったというが、「どこに入ってもやることは一緒。監督からも気にせず思いっきり行けと言ってもらったので」と腹をくくった。
そこには、今年1月の自主トレから面倒を見てもらっている“師匠”・柳田悠岐と同じ5番に座るという巡り合わせもあった。ソフトバンクは前乗りしており、シリーズ前にはリラックスした雰囲気の中で言葉を交わし、大舞台のプレッシャーの中、師匠と同じ5番の重みを背負って打席に立った。
シリーズ全体を通しては結果を残すことができなかったものの、「悔しい思いはありましたけど、またクリーンアップを打てるようになれればいいなと思います」と、最高峰の舞台で得た空気感は来季への大きな財産となった。
◆ 異国の地で鍛える心技体
「レギュラーを狙う以上、どれか1つというわけにはいかない。走攻守どれにおいてもレベル高くしないといけないと思います」
満足に終われなかった今年を糧にするため、梶原はすでに海を越えた。
オフシーズンには球団に自ら志願し、メキシコのウインターリーグへ武者修行に旅立った。「試合数や打席数をたくさん立たせてもらいたいです。またすぐリリースされるような厳しい環境の中でしっかり年末ギリギリまで戦えればなと。何しろ過酷でアグレッシブな環境に飛び込むのが一番話が早いと思うので」と、夏の段階から準備を進めてきた。関根大気ら先輩からも現地の様子を聞き、タフな環境の中で戦い抜く覚悟を決めている。
言葉も通じない異国での生活、決してレベルの低くはないメキシコでの野球。「異国で何ヶ月っていうのは初めてですけど、2ヶ月で日常会話の挨拶程度ができればと思っています。胃腸は弱いですけれどもタコスは好きですし。何枚食べたかずっと数えとこうかな」と、持ち前の明るさでハングリーな環境をもポジティブにとらえている。
「右肩下がりじゃいられないですからね」
日本一の原動力になってから2年間が過ぎた。ファームで泥臭く築き上げた打撃の土台。一軍の28試合や日本シリーズで味わった悔しさと歓喜。そして、メキシコの荒波の中で磨き、年明けは再び“ギータ塾”で心技体を整える。
ハードなオフを経て“逆襲のシーズン”へ。梶原の6年目の戦いは、もう始まっている。
取材・文 =萩原孝弘