イニング数を上回る勢いで次々と積み上がる三振の山――。夏場以降の平良拳太郎の投球で光るのはその「奪三振力」。
雨天で足場も悪く、決して本調子とは言えないコンディションの中で掴み取った自己最多タイの5勝目の裏側には、打者を惑わす落ち球の存在と、試合前から緻密なゲームプランを描いた若き女房役・松尾汐恩とのコンビネーションが関連していた。
◆ 手に入れた新球
奪三振率9.66。これはセ・リーグでもトップクラス。強く速くなったストレートを軸に、同じ球速帯で落ちるシンカーと鋭いスライダーは昨年からの球種だった。
今年はそれに加え、意図的にスピードを抑えた120キロ前後の「落ち球」の存在が、相手打線を翻弄する最大の武器となっていた。
「フォークですね。シンカーってまっすぐと同じ球速帯なんですけど、そこからもう一個抜いた球をずっと投げたくて。去年ディメンショニング(野球専門トレーニング施設)に通って教わって、いつ出そうかと温めていたんです。今年交流戦のあたりで調子が上がらなかった時に『1回出してみよう』と言う感じでした。今1番三振が取れているし、イニング以上に取れているのはそれが要因ですね」
右バッターには「スライダーで三振が取れる」との自信がある。しかしサイドスロー故、左バッターにはボールが見えやすい傾向がある。「やっぱり僕みたいなタイプだと、左には曲がり球だけで三振取るのはキツい。そこでフォークです。またもう一種類球種が増えることは、絞りづらくなるところでもありますね」
この新たな武器を含め、捕手の松尾汐恩も最大限、平良の良さを引き出した。
「平良さんはすごく器用にいろんなことができるピッチャーなので、自分の中でいろんな発想を持ちながら進めました。ほんとに、いろんな球を消さずに持っておこうと思っていましたし、しっかりと自分も平良さんに気持ちを伝えるぞという想いでずっとやっていました」
試合前の段階から「今日は調子が上がらない」という現実を平良は告白し、それを踏まえた上での最善策を2人で組み立てた。
「試合前から『ごめん、今日はこんなもんしか投げられないわ』って話をしてたんです。だからその分、球数を使っても丁寧にいくわと。今日はいつもよりインコースが多くて、要所要所でバッターが嫌がる球を投げられました。僕はローボールヒッターや外の球を打たれることが多いので、相手の思い通り、好きなところに投げさせないように逆を行きたかった。そこを汐恩が上手くリードしてくれましたね」
松尾も平良に感謝する。
「本当に投げミスなく、制球力良く投げてくれました。丁寧に高低をうまく使いながらせめて行けたので、本当に良かったです」
データを駆使しつつ、打者の残像や苦手意識の逆を突く柔軟なアプローチ。投手の打ち取るイメージを、若きキャッチャーの感性とすり合わせた。それは5回⅓を無失点、奪った三振は9の結果となって表れた。
すでに自己最多イニングを投げぬき、勝負の秋に向けて確かな手応えを掴んでいる平良拳太郎。「最後まで出し切りたいなという気持ちで、1つでも多く勝ちたいです」 。限界のその先へ。奪三振を武器とした琉球右腕の戦いは、ここからいよいよ佳境に入る。
取材・文=萩原孝弘