オリックスの新しいヘッドコーチに就任した三木肇・前楽天監督が、参加している秋季キャンプで持ち前のコミュニケーション力を発揮している。
「本当に僕自身がオリックスのことをしっかりと理解をしなきゃダメだと思います。若いコーチも多くいろんなことを話すことでヒントになることも出てくるので、コミュニケーションを取りながら進めていきたいと思います」。キャンプ3日目を終えた三木ヘッドが、静かに口を開いた。
就任発表のあった11月1日からキャンプに参加。3日目も守備練習後に安達了一コーチや、全体練習後に1時間以上も岸田護監督と話し込んだ。前日には太田椋、紅林弘太郎、麦谷祐介、野口智哉各選手とグラウンドで会話を交わす姿があった。
「一緒にやることになったのでよろしく、という雑談なんですよ」というが、会話の内容はちょっと変わっている。「自分で自分のことをどう思っているのかとか、野球は好き? って聞いているんです。僕がああだこうだと言うより、結構話してくれますので。ああ、そうなんや、俺もしっかりと見れるところは見て、力になるから来年に向けて頑張ろうなという感じですね」。野口とは握手をして会話を終えた。
年下からも学ぶことはたくさんあるという。「安達コーチとは年齢が離れていますが、彼にはプレーヤーとしての経験があり、僕の知らないことをたくさん知っているだろうし、オリックスのことは彼の方がよく知っています。会話から練習方法や進め方のヒントなどが出てくるんです。きれいごとではなくそう思います」
堺市出身。上宮高時代、23本塁打を放ちドラフト1位で内野手としてヤクルトに入団。現役最終年の日本ハムを含め12年で359試合に出場し、303打数59打数、2本塁打、打率.195にとどまったが、指導者としての経験は豊富だ。現役引退後に日本ハムで1軍内野守備走塁コーチ、ヤクルトでは2軍内野守備走塁コーチ、1軍作戦コーチ、1軍ヘッドコーチ、2軍チーフコーチ。2019年からは楽天の2軍監督、1軍監督を2度務めた。盗塁は7つのポイントを挙げて指導するなどの理論派で、陽岱鋼選手(日本ハム)や山田哲人選手(ヤクルト)、小深田大翔選手(楽天)の盗塁王獲得に貢献した。楽天、オリックスはプレーしたことのないチームで、人間性や指導者としての実績が評価され招聘された。上宮高時代の監督で、日本高野連の技術・振興委員の田中秀昌さんは、少年野球の試合後に見せた三木ヘッドの行動が忘れられないという。「試合に負けたのですが、彼はベンチの掃除や道具の片づけを率先してやっていたんです。この姿を見て勧誘を決めました」。春の甲子園で優勝したメンバーの中で1年夏からベンチ入りし、主将も務めた。甲子園出場は果たせなかったが「劣勢になっても一人で声を出すなど、チームを引っ張ってくれました。同学年で3人プロ入りしたのですが、キャプテンシーがありチームをまとめるのは彼だと決めていました」と話す。
指導者になってからも、様々な役職を経験したことが強みで「ありがたい話です。いろんな方のおかげで、本当に貴重な体験をさせてもらっています」。監督を補佐するヘッドは2度目。「監督だけがしんどいわけではなく、担当コーチの難しさや大変さもわかります。監督の大変さも経験させていただいたおかげで、自分なりにわかります」という。そのうえで「チームのことを知らなきゃダメだと思うし、知っておかなきゃダメというのがヘッドの役割の一つ。あとは監督のしたい野球に理解を示しながら提案もしなきゃダメでしょうし。コーチがやりたいと思っていることもしっかりと吸い上げて選手に落とし込みながら、監督との間のパイプ役になってバランスを取っていくことも大事です」と自身の目指すヘッド像を挙げた。
選手に求めるのは、凡事徹底。「当たり前のことを当たり前にやるのって、一番難しいのかもしれません。当たり前にできる量と質が高ければ高いほど、組織として強くなります。その質を上げていく作業と意識がすごく大事かなと思います」と、さらに凡事の質を上げることを求める。
楽天の2軍監督時代、球団のYouTubeで「選手一人ひとりのお母さんみたいな感じ」と話したことがきっかけで、ファンから“三木ママ”と呼ばれたことも。「僕の風貌はママじゃないんですが、自分の気持ち、心持ちというかスタイルは変わらないと思います。僕は野球が本当に好きだし、今はオリックスのチームに対しても情熱と愛情は強く持っています」といい、“ママ”のハートのままで臨むようだ。
49歳で迎えた新しい環境。「お声がけをいただいて、チームの力になってほしいと思ってもらっている中で、どれだけ期待に応えられるか。求められていることをどこまで返せるのか、その責任の方が大きいですね。チームをよくしたいという希望と、うまく進めることができなかったらどうしようという不安と戦っている感じですね」。自分を客観的に俯瞰し真情を吐露できるのも魅力なのだろう。Bクラスから4年ぶりの優勝へ。三木ヘッドの手腕に期待が高まる。
取材・文=北野正樹