◆ 白球つれづれ2026・第43回
それはまさに電撃発表だった。
巨人は今月23日、来季からの新監督に松井秀喜氏の就任を発表した。
直前まで、米国生活の長い松井氏は家庭事情もあり就任の大きなネックになると見られていたが、山口寿一オーナーは「チームの危機的状況を救ってほしい」と熱烈ラブコール。これに松井氏も応えたものだ。
亡き長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督の最後の教え子にして、メジャーでもその名をとどろかせた「ゴジラ」が古巣に帰って来る。
圧倒的な現役時代の実績と知名度に加え、誰からも愛される人柄。松井新監督の誕生は、巨人ファンのみならず、球界全体に活気をもたらすビッグニュースだった。
背番号は恩師の第一期監督時代と同じ90番。長嶋さんの教えを胸に指揮官は「新たな黄金時代が訪れるよう、今日ここからスタートしていきたい」と名門復活を旗印に掲げた。
「球界の盟主」と呼ばれた巨人も原辰徳監督時代の2012年を最後に日本一の座から遠ざかっている。連覇となると1965年から73年までのV9時代にさかのぼる。松井新監督は、その後の王国は80年代のライオンズとここ十数年のホークスしか作れていない、と語る。そこに一歩でも近づけるチーム作りを念頭に置いている。
では、ここに出て来た3チームの黄金期をチェックしてみよう。
1960年代半ばから始まった巨人のⅤ9はもちろん王貞治、長嶋茂雄の「ONコンビ」を抜きには語れない。柴田勲や高田繁らの脇役が塁上を埋めるとONが還す。川上哲治監督はドジャース戦法を早くから取り入れて無敵軍団を作り上げた。
1982年から始まる西武の黄金時代は広岡達朗、森祇晶と巨人から袂を分かった名将が勝利のマインドを持ち込んだ。そこに“球界の寝業師”と言われた根本陸夫氏が秋山幸二や工藤公康、伊東勤らを裏技で獲得して、またたくうちに強豪に仕立て上げた。
特に森監督時代の9年間で8度のリーグ優勝と6度の日本一は、今でも金字塔として記憶される。
そして近年のソフトバンク王朝である。その土台を築いたのは、王貞治現球団会長だ。前身のダイエー時代から苦しい戦いの連続だったが、勝負への執念と勝者のマインドを植え付けていった。
工藤公康監督(来季から中日監督)時代の15年から7年間で4連覇を含む5度の日本一で「優勝請負人」と呼ばれた。一昨年から指揮を執る小久保裕紀監督も目下、3年連続リーグ制覇中で今季の日本シリーズに勝てば無敵艦隊が出来上がる。
ソフトバンクホークスの場合は孫正義オーナーの持つ豊富な資金力も見逃ない。すでに他球団では真似の出来ない4軍制を敷き、育成選手からも人材を輩出する。今日本シリーズでも第1戦が庄子雄大、第2戦は正木智也らの若手選手が躍動。敗戦の危機に元本塁打王の山川穂高選手が代打で起死回生の一発だから選手層の厚さは群を抜いている。
翻って、新生・松井巨人の戦力はあまりに心もとない。
「打線の核になる人材がいない」と次期ヘッドコーチが確実視される高橋由伸氏が認めるように、クリーアップを組む名前も出てこないのが現状だ。
巨人と言えば、これまで危機的状況に追い込まれると、FAやトレードで大物選手を獲得してきた。落合博満、清原和博、小笠原道大、広澤克実ら各球団の四番打者がチームの危機を救ってきた。しかし、かつてのように誰もが巨人のユニフォームに憧れる時代でもない。マネーゲームでもソフトバンクには及ばない。
もちろん、松井新監督にチームの危機的状況からの脱却を託す以上、なりふり構わぬ補強策を狙っていくだろうが、黄金期の建設にはまだまだ困難が待ち受ける。
新監督が挙げる3チームの黄金期に共通しているのは、基本に忠実なチーム作りとフロントと現場が一体となった組織の構築だ。そこに「第二の松井」を育て上げる事が出来れば、覇権に近づく。
来年の開幕時点に、松井巨人はどんな陣容を揃え、新指揮官はどんな鍛え方を見せるのだろう。過大な期待は酷だが、それもこれも松井監督の背負う宿命である。
長い旅路が始まろうとしている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)