ソフトバンクの工藤公康監督

◆ 白球つれづれ2026・第42回

 中日の新監督に工藤公康氏が就任することが明らかになったのは今月7日のことだった。

 前任の井上一樹監督が自ら辞任を表明したのが、先月29日。それから10日も立たないうちの電撃発表だから、水面下ではもっと早い時期から水面下で折衝が行われていたことをうかがわせる。

「外部から経験も知見もあって、(それを)ドラゴンズに注入してくれる方」と加藤宏幸球団社長は、工藤氏に「白羽の矢」を立てた経緯を説明した。

 これまで指導者にも生え抜きOBを重用してきた球団にとって、外部から招請するのは異例のこと。直近の10年間でAクラス入りが与田剛監督時代の20年ただ1回。その後は立浪和義監督時代に3年連続最下位。そして井上前監督でも4位、6位だから非常事態のチーム再建を託すのは、ソフトバンク時代に“優勝請負人”と呼ばれた工藤氏になるのも当然の帰結だった。

 西武でプロ人生をスタートして、またたくうちに左腕エースとして黄金期を支えた。その後ダイエー(現ソフトバンク)や巨人などでプレーして通算224勝(142敗、3セーブ)を記録。2015年からソフトバンクの監督に就任すると7年間で5度の日本一と実績は文句なし。孫正義ソフトバンクオーナーから直々に慰留されるが区切りをつける形で退団。その後は多くの球団から監督就任の要請を受けるが、外部からの勉強を続け、退任から5年たった今、年齢的にも63歳を迎えユニフォーム復帰を決断したものだ。

 名古屋出身で名古屋電気(愛工大名電高)時代には甲子園でも活躍。地元ファンにとっても馴染みのある名前だ。しかし、“野球人・工藤公康”にとってそんな感傷に浸る暇はない。いかにしてチームの強化を図り、優勝争いの中に入っていけるか? 過去の栄光が輝かしいほど、期待値も高くなる。だが、今度預かるチームはソフトバンク時代とは比べ物にならない弱小チーム。難題への挑戦が始まる。

 今月15日に行われた就任会見で、真っ先に口にしたのは、選手やスタッフとのコミュニケーションをとる大切さだった。

「何が最適かをコーチ陣と話し合い、色々な部分がミックスされ、そのうえでいい色を出せればと思っています」。

 指揮官1人の独善ではなく、チームが一体となって戦いに臨むのが工藤流。一方で、選手たちとの初対面では「あれをやれ。これをやれと押し付ける気はない。自分がプロで生きていくには何が必要か? チームにはどうやって貢献できるのか? を考えて欲しい」と自主性を尊重しながら、各個人の意識改革の必要性を説いた。毎年、下位に低迷しているチームには「負け犬根性」が染みつく。そうした心の改革から手をつけようとする狙いが見て取れる。

 次に加藤球団社長がチーム浮上のカギとしたのが「投手陣の建て直し」である。

 今季の戦いの跡を振り返るとチーム防御率3.28でリーグ4位の投手陣以上に、リーグ5位の.228に終わったチーム打率の方が気にかかる。

 しかし、もう一つ重要な弱点がある。今季60勝81敗2分けの最下位に沈んだが、最大の敗因は40試合に上る逆転負けだ。さらに付け加えるなら2点差以内のゲームに26勝48敗2分けの勝負弱さが露呈している。

 現代の野球は6回以降の投手陣の出来が勝敗に直結する。中日で言えば柳裕也、大野雄大、金丸夢斗と3人の先発投手が防御率2点台と健闘しているのに、クローザーの松山晋也につなげる中継ぎ投手が弱いので「勝利の方程式」が作れない。橋本侑樹、齋藤綱記、清水達也らの力不足に加え、首脳陣の温情起用があだになったと指摘されることもあった。

 仮に40試合の逆転負けのうち半分の20試合を持ちこたえていれば今季の成績は80勝61敗2分けの計算が成り立つ。

 先発で気を吐く大野は来季39歳、涌井秀章も41歳を迎える。投手陣の再編とやりくりは工藤新監督ならお手の物。打線ではすでにマイナーで168発の大砲、ライアン・ウォード選手(ドジャース3A)の入団が確定している。この先のドラフト、現役ドラフトやトレードなどの補強次第で来季は“台風の目“以上の存在になる可能性は秘めている。

 すでに新投手コーチに吉見一起、打撃コーチに高校の後輩でもある山﨑武司氏らが決まり工藤内閣の全容が整いつつある。

 現役引退後は筑波大学で運動生理学を学び、監督勇退後は山梨で農業に挑戦したりすべてを自身のエネルギーに代えて来た。

 あるドラ党は、今季の不成績にしびれを切らして、ファンクラブからの脱会を決意したが、工藤新監督の誕生で思いとどまったと言う。

 阪神、巨人、DeNAの3強と広島、ヤクルト、中日の3弱に固定化されつつあるセ界に新風を吹き込めるか? 工藤竜の変身が見ものである。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

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