育成から這い上がってきた背番号65が、新たな扉を開けようとしている。中継ぎとして一軍のブルペンを支えてきた宮城滝太が、シーズン中に重い決意をした。それは“先発への挑戦”だった。
プロ野球選手としてのキャリア、そして自らの可能性を広げるための大きな一歩。その裏には、自身の揺るぎない向上心と、チーム首脳陣、そしてコーチ陣との深い信頼関係があった。
「バカみたいに野球をやってきた育成時代に戻った感じになるくらい、今は楽しいですね」
ファームでの調整と先発転向の打診を受けた時、宮城の胸中を去来したのは二軍落ちの落胆ではなく、むしろ胸が高鳴るような高揚感だった。「中継ぎをやってきて、自分の特徴や球種が整理できました。だからこそ今、先発として何ができるか試したいんです。新しい自分が見られるんじゃないかと思ったんです」と、本人はその時の心境を振り返る。
育成時代にも先発を経験しているが、「あの頃とは訳が違う」と自覚するからこそ、今の挑戦には確かな手応えと新鮮さがある。猛暑の夏のなか「育成の時くらい、いや、それ以上に練習しているかもしれないですね」と語るほど、充実した表情でトレーニングに没頭する。
中継ぎはリカバリーが最優先される。ただ今は自分の時間で鍛錬を積むことができる。明らかに大きくなった身体は、決意と比例している。心技体全てにおいて新たなスタートラインに立った若き右腕の目は、未来の自己像を見据えて輝いていた。
◆ 入来コーチが評価する「アドバンテージ」と、直面する壁
そんな宮城の背中を頼もしく見つめるのが、先発中継ぎ抑えと全てのポジションをこなしてきた入来祐作ファーム投手コーチである。
久しぶりに間近で見た宮城の球の出力の上がりに驚きつつ、先発としての適性についてこう太鼓判を押す。
「彼の一番のいいところは、球が速いことと、緩急のあるカーブがあるところ。このスピード差、緩急があるというのが、先発としてもやっていけるんじゃないかという評価ですね」
変化球へのこだわりや多彩な球種を持つ宮城に対し、入来コーチは大きな期待を寄せる一方で、リリーフと先発の決定的違いについても厳しく説く。
「リリーフは短いイニングで1球1球の勝負に全力を注ぐが、先発はトータルで自分の試合を作らなければならない。リリーフで出す球の出力を、長いイニング続けなくてはいけない。そのための負荷に対する体制を今、一生懸命作らなければいけないところです」
さらに、入来コーチが強調するのが「メンタルのスタミナ」だ。
「長いイニングを投げていくと球の出力が落ちるのは、体力的な部分だけでなく、緊張感を保ち続ける精神力のスタミナが大きいんです。耐え忍びながらイニングを跨いでいく難しさがありますね」
もっとも、中継ぎとして厳しい修羅場をくぐり抜けてきた経験が、先発の仕事に生きるのも事実。
「リリーフをずっと経験していると、先発を任された時に少し冷静にゲームを見ながら投げられる利点がある。その感覚を彼に養ってもらいたい」と、入来コーチはかつて自身も歩んだ道を重ね合わせながら、その成長を見守っている。

◆ 先輩から盗み、自らの引き出しにする
宮城自身も、ただ漫然とイニングを延ばそうとは考えていない。4年連続2桁勝利を挙げる東克樹ら、実績ある先発陣に自ら積極的に歩み寄り、1週間のリカバリー方法や試合への入り方といった「勝てるピッチャーの取り組み」を貪欲に吸収している。
元来様々な選手に問いかけ、自分の糧としてきた。先発に転向後でも技術的な真似ではなく、一軍の第一線で戦い続けるためのルーティンや思考法を取り入れようとする姿勢は、自らの成長曲線を加速させるポイントとなっている。
「起用のされ方も含めて、自分が思い描いた通りにいかないのが野球人生。だからこそ、どちらの役割にも対応できるだけの引き出しを作っておくことが大事なんだ」
入来コーチのそんなエールと現実的な視点に対し、宮城は「0から始まるのが好きなんです。自分が成長できる新しい刺激が欲しいですから」と力強く応える。
入来コーチの指摘する通り、来季の役割がどうなるか、現時点で明確に決まっているわけではない。
しかし、この先発挑戦に向けたハードワークや得た知見は、再びブルペンに戻ることになったとしても必ず彼の大きなプラスとなる。
不確実な未来に臆することなく、自ら志願し、口に出した挑戦。宮城滝太のこの決断は、単なる配置転換の枠を超え、どんなポジションであっても腕を振る投手としての器を広げるターニングポイントとなる。
取材・文=萩原孝弘