「高校球児のトライアウト」に潜入!
8月28日と29日に甲子園で、9月5日と6日は東京ドームで行われた『プロ野球志望高校生合同練習会』。
新型コロナウイルス感染拡大の影響でほとんどの春季大会、夏の甲子園大会が中止となったことから、選手にとってはアピールの場が、スカウトにとっては視察の場が不足しているということで、NPBと高野連がタッグを組んで行われた史上初の試みである。
聖地・甲子園で行われた西日本会場は77人、東京ドームで行われた東日本会場には41人、合計118人のプロ候補たちが参加。ここでは、その中でもキラリと光るプレーを見せた選手たちを紹介していきたい。今回は投手編。
福岡大大濠・山下舜平大は“超高校級”
まず、ドラフト上位指名間違いなし!というパフォーマンスを見せつけたのが、福岡大大濠の山下舜平大(やました・しゅんぺいた)だ。
最初の2球はカーブから入り、3球目に投げたストレートはいきなり150キロを計測。
その後、緊張と力みからか少し高めに抜けるボールも目についたものの、投じた11球のストレートはすべて145キロ以上。そのアベレージは147.6キロと、高校生としては驚異的な数字を叩き出して見せた。
ゆったりとしたモーションでフォームのバランスが良く、高い位置から腕を振ることができるため、ボールの角度と勢いも申し分ない。
全参加選手のなかで、完全に頭ひとつ抜けている印象を与えた。
支配下でのドラフト指名が狙える4人
つづいて、上位指名とはいかなくても、支配下での指名が狙えそうな選手としては、帝京大可児の加藤翼(かとう・つばさ)、履正社の内星龍(うち・せいりゅう)、浦和実の豆田泰志(まめだ・たいし)、学法福島の辻垣高良(つじがき・たから)の4人を挙げたい。
加藤は最速150キロ超えの速球を持つ右腕として注目を浴びていたが、なんと直前の雷雨によって残念ながら室内練習場での登板に。そのため、スピードガンの数字も表示されずに“不明”となるハプニングに見舞われてしまった。
それでも、伸びやかなフォームから繰り出すストレートで打者を圧倒。岐阜の独自大会では最速153キロをマークしているが、実戦で酷使されていないこともあり、まだまだ成長が見込めるのも魅力だろう。
将来性という意味では、内も負けてはいない。
190センチの長身で、山本由伸(オリックス)にそっくりのフォームから最速147キロをマーク。打者5人を相手に一つの四球は与えたものの、ノーヒットピッチングを披露した。
長身を持て余したようなところがないのが長所。指先の感覚も良く、投げる機会は少なかったが、130キロ台のカットボールやスプリットといった変化球も目立った。スケールの大きい若手投手がほしい球団にとっては、非常に魅力的な投手である。
“実戦力”の高さを見せたのは豆田だ。
身長は173センチながら全身を大きく使って腕を振ることができ、自己最速となる147キロをマークしたストレートをコーナーに集める投球は安定感十分。
もともと球質の良さは素晴らしいものがあったが、そこにスピードも加わり、さらに凄みを増した印象を与えた。
そして、サウスポーで最も目立ったのは辻垣だろう。
最速は143キロとそこまで目立つ数字ではなかったものの、バランスの良いフォームで球筋が安定しており、打者7人から全て空振りで5三振を奪う快投を披露。110キロ台のカーブ、120キロ台のスライダーとチェンジアップも上手く操り、高校生左腕としては完成度も十分に高い。
今年は左腕の候補が少ないだけに、獲得を検討している球団も少なくないだろう。
将来性を感じさせた5人
高校から支配下での指名は難しそうでも、高い将来性を感じたのが、国学院栃木のシャピロ・マシュー・一郎、健大高崎の鈴木威琉(すずき・いりゅう)、埼玉栄の内田了介(うちだ・りょうすけ)、武田の久保田大斗(くぼた・だいと)、神村学園の桑原秀侍(くわはら・しゅうじ)の5人だ。
シャピロはまだまだ無駄な動きは目立つものの、191センチという長身から投げ込む最速147キロのストレートは魅力十分。早めにプロで鍛えてもらいたい素材だ。
鈴木はチームでは3番手ながらも、球威は最も感じられた。細かい球数の管理で、使い減りしていないのも魅力である。
内田は野手としても評判だったが、この夏に投手として大きく成長。数字以上のボールの勢いが感じられ、広島の苑田聡彦スカウト統括部長も「最も良かった投手」として名前を挙げていた。
久保田も140キロ台前半ながらストレートの質が良く、空振りを奪えるのが持ち味。1学年先輩で昨年オリックス入りした谷岡楓太と比べても、フォームの安定感は久保田の方が上に見える。
桑原は粗削りだが、コンスタントに145キロを超える馬力が魅力。良さを残したまま上手くまとまりが出てくれば面白い存在だ。
大化け期待の素材型投手
最後に、現時点でのスピードは物足りなくても、興味を惹かれたのが足立西の野里慶士郎(のざと・けいしろう)だ。
180センチ・73キロと細身ながらすらっとした体つきで姿勢が良く、力みのないフォームから角度のある140キロ前後のストレートをしっかりコントロールすることができていた(この日の最速は141キロ)。
緩急をつけるカーブと決め球として使えるスライダー、フォークの制球力も申し分ない。体が成長すれば、一気に大化けする可能性も十分にあるだろう。
山下が頭ひとつ抜けた存在だったことは間違いないが、他にも今後が楽しみな投手は非常に多かった印象。
ここでは取り上げていないが、山下に次いで速い最速148キロをマークした浦和学院の美又王寿(みまた・おうじゅ)や、以前取り上げた佐和の黒田晃大(くろだ・あきひろ)なども存在感を示していた。
10月26日のドラフト会議当日には、この中から何人が名前を呼ばれることになるのか。今から楽しみだ。
☆記事提供:プロアマ野球研究所