最終回:「厘差」を巡る攻防
セ・リーグの優勝争いが激しい様相を呈している。
25日現在(以下同じ)の順位表は以下の通り。
1位:阪 神 95試合 54勝38敗3分け 勝率.587 -
3位:ヤクルト 90試合 46勝34敗10分け 勝率.575 2.0差
4位の中日以下とは大差がついているため、事実上は3強のデッドヒートと言っていいだろう。
首位を行く阪神の勝ち星だけを見れば、54に対して巨人は49、ヤクルトに至っては8勝分の差がある。負け数も阪神が多いが、何よりの違いは引分け数だ。
ペナンレースの優勝の決め方は勝率の高いチームが上位に立つ。ちなみに勝率の算出方法は試合数から引分け数を引く。これを勝利数で割れば良い。
つまり巨人の場合は「49÷84=.5833」。これに対して阪神は「54÷92=.5869」。小数点4ケタ以下は四捨五入すると現在の数字となる。
ゲーム差はあくまで目安で、勝率の勝負だからこの3チームは今後いつ、順位が入れ替わってもおかしくない。今季序盤はパ・リーグが首位から5位まで5ゲーム差程度の大混戦模様だったが、現時点ではセ・リーグの覇権争いが熾烈を極めている。
この息詰まる争いの最大の要因は先に挙げた「引分け」である。
例年なら延長12回まで戦ってきたが、今季はコロナ禍の特別ルールで9回打ち切りと決まっている。したがって、勝率5割を超す上位チームには勝率に影響する引分けは有利に働く。逆に勝率5割以下のチームにとってはプラスになることはない。
チームの40勝も50勝もリーグ一番乗り。今月24日のDeNA戦で青柳晃洋投手が10勝目に到達すると、スポーツ紙は「1位チームで10勝一番乗り投手」が誕生した場合のⅤ率は83%と、阪神の進撃をはやし立てる。だが、これは通常のペナントレースを土台にしたもの。今季のような「コロナ禍の特別ルール」下では、鵜呑みに出来ないのもまた事実だろう。
引き分けが明暗を分けた「伝説の10.19」
引分けがペナントの明暗を分けた代表例がある。1988年に西武と近鉄で繰り広げられた死闘は「伝説の10.19」として語り継がれている。
先に全日程を終了した西武に対して近鉄が猛烈な追い上げを見せて対ロッテ戦に3戦全勝なら逆転優勝。まず18日の一戦を勝利して迎えた10月19日の川崎球場(当時のロッテ本拠地)はダブルヘッダーとなった。
初戦を9回に代打・梨田昌孝の決勝タイムリーでモノにして、第2試合が最後の大一番。ゲームはまたしても大接戦となり9回終了時で4対4の同点。しかも、9回裏ロッテの攻撃時に事件が起こる。無死一、二塁の近鉄ピンチで二塁への牽制でアウトの判定、これに当時の有藤通世監督が「二塁手・大石の走塁妨害」を主張して紛糾した。
当時のルールは延長12回、もしくは4時間を超えて新しいイニングに入らないと規定されていた。有藤監督の猛抗議は約9分続き、時間は刻々と過ぎていく。ようやく判定通りで再開にこぎつけたが、延長10回、近鉄が無得点で終わった時点で試合時間は3時間57分を経過。ロッテのその裏の攻撃を待つまでもなく、近鉄の逆転優勝は夢と消えた。
近鉄が74勝52敗4分けに対して西武は73勝51敗6分け。わずか1厘差での決着だった。
阪神や巨人にとってもう一つの懸念材料は、ヤクルトとの試合数の違いだ。現時点では5試合分、ヤクルトの消化が遅れている。今後、日程の調整は進んでいくが、単純計算でヤクルトがこの5試合を5勝したら2ゲーム差は逆転される。神宮球場や主催ゲームの雨天中止の多さが要因だが、星勘定を考えた時、先に全日程を終了して当該球団の戦いを待つのは避けたい。
もちろん、ライバルチームを蹴散らして首位を快走するのが理想だが、コロナ禍の特別ルールによって、この先も一つの負け試合を引き分けに持ち込むような粘りが例年以上に必要となる。
ファンにとっては堪らない「厘差の戦い」も、首脳陣にとっては胃の痛くなるような日々の到来を意味する。残り約50試合。「残暑の陣」はまだまだ熱い。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)