ハイレベルなタイトル争い を演じた2011年の日本ハム・ダルビッシュ(左)と楽天・田中(右)

◆ 久々のスーパーエース!?

 巨人の菅野智之の存在は古すぎて新しい。

 NPB日本人歴代最高額の年俸6億5000万円で契約更改。今季の菅野は10完投8完封という昭和の大エースのようなタフさで15勝を挙げ、最多勝、最優秀防御率、最多奪三振で投手3冠に輝き、CSではノーヒットノーランを達成。2年連続の沢村賞も受賞する圧巻のシーズンで、来季から伝統の背番号18を継承することも決まった。

 プロ6年間で名実ともに日本球界の頂点にまで登り詰めた菅野は現在29歳だが、大谷翔平はもちろん、近年のダルビッシュ有、田中将大、前田健太らは皆、この年齢になる前にメジャー移籍を果たしていたし、このオフのポスティング移籍が話題の菊池雄星にしても91年生まれの27歳だ。菅野以外は全員高卒ドラ1でのプロ入りということもあるが、29歳の全盛期に日本球界で投げる絶対的エースは久々な気がする。

◆ スーパーエースによる投げ合い

 そんな入れ替わりの激しい平成球界で、スーパーエースが同リーグで投げ合ったレアな時代もあった。2010年前後のダルビッシュ有(日本ハム)と田中将大(楽天)である。CD売上げ年間ランキングベスト10をAKB48と嵐が独占していたあの頃、思い出すのは2011年7月20日、東京ドームの「日本ハムvs.楽天」だ。

 この試合は平日ナイター、さらに台風6号接近の悪条件にもかかわらず、なんと全席種完売。満員御礼となる4万4826人の大観衆が詰めかけた(自分もそのひとりだ)。なぜならこの夜、すでに大エースの風格を漂わせるダルビッシュと、恐ろしいスピードで成長していたプロ5年目の神の子・田中将大が先発で投げ合ったのである。まさに当時の“日本最強投手決定戦”といった盛り上がり方を見せた。直近シーズンの2人の成績を見てみよう。

▼ 2009年
・ダル:23試(182回) 15勝5敗 率.1.73 三振167
・田中:25試(189.2回)15勝6敗 率.2.33 三振171
※ダルビッシュ:最優秀防御率、最高勝率、MVP

▼ 2010年
・ダル:26試(202回)12勝8敗 率.1.78 三振222
・田中:20試(155回)11勝6敗 率.2.50 三振119
※ダルビッシュ:最優秀防御率、最多奪三振

▼ 2011年
・ダル:28試(232回) 18勝6敗 率.1.44 三振276
・田中:27試(226.1回)19勝5敗 率.1.27 三振241
※ダルビッシュ:最多奪三振
※田中:最多勝利、最優秀防御率、最高勝率、沢村賞

 こうして振り返ると11年夏の直接対決に超満員の観客が押し寄せたのも納得できる。このシーズンのダルビッシュは46回2/3連続無失点を記録し、10完投、6完封。田中は14完投、6完封で防御率も1点台前半と、お互いに驚異的な安定度とタフさを誇っていた。2人は終盤まで最多勝争いも繰り広げ、9月29日にダルビッシュが17勝目を挙げれば、田中も負けじと10月1日に17勝目を記録。まさに野球界のど真ん中で互いに一歩も引かずしのぎを削ったわけだ。

 結局、2年ぶり4度目の“7.20”の投げ合いはダルビッシュが9回4安打1失点の貫禄勝ち。これが日本では最後の顔合わせとなり、11年オフにダルビッシュはポスティングシステムでメジャー移籍を果たす。そして、田中自身もその2年後には24勝0敗の金字塔と楽天初日本一を手土産に、同じくポスティングを申請しあとを追うことになる。 もはや、ヤンキースとの総額161億円の大型契約を勝ち取った田中には“メジャー挑戦”と言うより、メジャーリーガー達が24連勝右腕に挑戦するような雰囲気すらあった。

◆ スーパーエースがいる意味

 絶頂期のダルビッシュ有と田中将大が火花を散らした2011年の記憶。当時のパ・リーグには他にも、ソフトバンクの杉内俊哉と和田毅、西武の涌井秀章と岸孝之、オリックスの金子千尋、楽天の岩隈久志ら若き好投手たちが顔を揃えていた。2000年代に松坂大輔や斉藤和巳の背中を追った若者たちが各チームのローテの柱となり、新人もそんな先輩投手の背中を超えようと切磋琢磨する雰囲気。2010年前後のパ・リーグはまさに好投手が好投手を生む理想的なサイクルがあったように思う。

 平成も終わりに近付き、最近の日本球界では投手タイトルを独占して「もはや日本球界でやり残したことはない」レベルに達すると、暗黙の了解でメジャー移籍という流れが定着している。もちろん早い段階で世界最高峰の舞台を目指すのは、時間的制約のあるアスリートなら当然だろう。

 ただ同時に、若手とベテランの“世代闘争”は情念とストーリーを生み、球場に金の雨を降らせる。プロ野球を興行として考えると、懐かしのゴールデンルーキー清原和博が山田久志のシンカーや村田兆治のフォークに挑む、大エースが若手打者を育てるみたいな名物アングルは激減してしまったのも事実だ。だが、来季は「菅野智之vs.根尾昂」が実現するかもしれない。そう考えると、乗り越えるべき巨大な壁として、時に憎たらしいほど手強い敵として、今この時代に全盛期のスーパーエースがNPBで投げ続ける意味は大きい。

 7年前のあの夏、ダルビッシュと田中の投げ合いにワクワクしながら、東京ドームへ向かったのを今でもよく覚えている。いつまで彼らのような才能を日本の球場で見れるだろうか……なんて頭の片隅で思いながら。たぶん、来シーズンも同じように俺ら野球ファンは、菅野智之の投球を見るために東京ドームへ走るのだろう。

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

【中溝康隆・プロフィール】
1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2010年より開始したブログ『プロ野球死亡遊戯』が累計7000万PVを記録し話題に。主な著書に『プロ野球死亡遊戯 そのブログ、凶暴につき」(ユーキャン)ほか。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人を担当し初代日本一に輝いた。7月10日に初のベストコラム集『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)発売!

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この記事を書いたのは

中溝康隆

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2010年開始のブログ『プロ野球死亡遊戯』が話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人を担当し初代日本一に輝いた。主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)『令和の巨人軍』(新潮社)ほか。新刊『巨人軍vs.落合博満』(文藝春秋)も絶賛発売中! 

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