2月24日のヤクルト戦では3回を零封の快投。開幕ローテ入りへアピールを続ける (C) Kyodo News

◆ し烈を極める開幕ローテ争い

 “アピール曲線”は間違いなく右肩上がりだ。

 春季キャンプから舞台をオープン戦に移して、各球団の開幕へ向けたメンバー編成は絞り込みの段階を迎える。タイガースも例外でなく、し烈を極めるのは開幕ローテーション入りをかけた争い。11年目の秋山拓巳は今、その当落選上の戦いに身を置いている。

 ちょうど1カ月前を思えば、一気に上昇を遂げてきた。キャンプイン当初、状態で言えば完全に「悪い」部類と言えた。

 チーム初の対外試合となった2月8日の中日戦(北谷)の先発に抜てきされたものの、初回に二死一塁から福田永将に左中間へ特大の2ランを浴びてしまい、2回2失点。直球のキレ味を欠く投球内容で、アピールすることができなかった。

 ポジションを奪いにいく選手にとって、これは致命的と言ってもいい“出遅れ”になる。

 特に今年に関しては東京五輪の影響で開幕が前倒しとなり、ベテランをはじめレギュラー組の調整ペースも早まる。すなわち若手選手の出場機会は日を追うごとに減ることとなり、1度の失敗が大きな「後退」を意味していた。

 加えて、投手陣は例年より多くのメンバーが招集されており、1人に割り当てられるイニング数も多くないことが予想された。序盤にして、28歳はいきなり正念場を迎えたことになる。

 沖縄では、試行錯誤の日々を送った。

 1月下旬、キャンプ地での先乗り合同自主トレでは、従来より腕を下げたフォームを取り入れていたが、思うように直球の球威が出てこない。

 失点した中日戦の前から投手コーチとも話し合いを重ね、より上から叩く意識を強くして腕の位置もやや上げて修正に着手。ただ、成果はすぐには表れず、14日のシート打撃でも4番候補のジャスティン・ボーアに内角直球を捉えられ特大の一発を被弾。もどかしい表情のままマウンドを降りた。

 尻に火が付いたのは、その直後だった。

 そのままブルペンに直行して投げ込みを開始。捕手の「何球まで投げる?」という問いかけに「納得するまで投げる!」と宣言して、うなり声をあげながら、ひたすら腕を振った。

 現状を打破したい……。そんな思いがにじんだ誰もいないブルペンでの時間。最後の1球がミットに吸い込まれると、少しだけうなずいた。

◆ 強い危機感を抱いて上がったマウンド

 結果的に“潮目”はここから変わった。

 次に与えられたのは18日の紅白戦。登板前、本人は置かれた立場と状況を十分に自覚していた。

 「ここで結果を出さないと厳しいと思うんで」

 2月にして強い危機感を持って上がったマウンドで、男は2回無安打無失点と好投した。好調だった高山俊に手を出させない内角直球をズバッと決めた3球三振など、合計4つの奪三振。球速は140キロ台でも、空振りの取れる角度ある直球という「ストロングポイント」が戻りつつあった。

 6日後の24日のヤクルト戦(浦添)も、7回から3番手で投げて3回零封。苦闘から始まった沖縄キャンプを快投で締めくくって見せた。

 2017年に自己最多の12勝をマークして以降、ここ2年は一軍に定着できていない。18年秋に受けた右膝手術から2年を迎える今季に懸ける思いは強い。

 「まだまだ良くなると思ってるので。精度をしっかり上げていけるように」

 西勇輝、高橋遥人、青柳晃洋、ジョー・ガンケルまで確定している先発ローテーションの座は残り2枠。中田賢一、藤浪晋太郎、岩貞祐太、ロベルト・スアレスらライバルは多く、簡単な戦いではない。

 それでも、見据えるのは先発の一角に食い込み、シーズンを戦い抜くことに他ならない。停滞していた底辺から一気に上昇を描いてきた“曲線”の頂点はまだ先にある。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

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