コラム 2024.04.02. 06:00

新生阿部巨人、阪神に勝ち越しスタート~35歳の救世主・梶谷隆幸

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巨人・梶谷隆幸 (C) Kyodo News
 背番号10と背番号83。

 東京ドームには、阿部慎之助監督の新背番号83だけでなく、現役時代の背番号10のユニフォームを着た観客の姿も多く見られた。場内コンコースでは他選手のプロデュースメニューより倍近い値段がつけられた「あべんとう~叙々苑 牛肩ロース弁当ver.~」(3900円)や蟹工船とのコラボ「最高です!豪華海鮮丼」(3000円)といった豪華弁当も売れ行き好調。売り場で列に並ぶご婦人のように「まあ新監督就任のご祝儀だからね」的に購入しているファンも多かった。


 2024年開幕シリーズ、阿部監督率いる巨人は前年日本一チームの阪神に対して、2試合連続の完封勝利で2勝1敗と勝ち越した。昨季は6勝18敗1分けと大きく負け越した天敵相手に上々のスタートだ。采配面でも正捕手の大城卓三を原監督時代によく見られた代走等で途中交代させることなく、3試合フルイニングで起用するなど随所で阿部色を感じさせたが、開幕戦でヒーローになったのは、ひとりのベテラン選手だった。


控え外野手の立ち位置だった35歳が勝利の立役者に


「梶谷隆幸が一塁の守備練習」

 2024年3月21日19時1分、「スポーツ報知」は東京ドームの1軍全体練習で、梶谷が約15分間に渡り、一塁の守備練習を行ったことを報じている。昨年は開幕直前に育成選手から支配下復帰も、102試合で打率.275、2本塁打、OPS655という全盛期とは程遠い不本意な成績に終わった。4年契約最終年、今季の梶谷は内外野の控え兼代打の切り札的な役割を担うことになる。多くの巨人ファンはそう思ったのではないだろうか。いや、もしかしたら、梶谷本人もその覚悟を持って、慣れないファーストミットを手に守備練習に励んだのかもしれない。


 だが、男の運命なんて一寸先はどうなるか分からない———。その5日後、26日夜に衝撃的なニュースが報じられるのだ。新外国人選手のルーグネッド・オドーアの退団が発表されるのである。メジャー178発男もオープン戦では打率.176と低迷。二軍での調整を拒否して、そのままチームを去った。開幕を3日後に控え、チームは想定外の事態に襲われるが、阿部監督から右翼の代役に選ばれた18年目のベテランは、72時間後に東京ドームで救世主となる。


 阪神の開幕投手・青柳晃洋との通算での対戦打率5割越えという相性の良さと調子の良さを買われ、梶谷は「3番右翼」で開幕スタメン出場。すると3回一死一・二塁の場面で森下翔太が放った右中間への大飛球に対して、ダイビングキャッチ。一塁走者は戻れず、併殺で大ピンチを切り抜けた。さらに1点リードの5回には右翼席へ通算978安打目となる1号2ランを放ち、阿部監督初勝利へと導いた。指揮官は4対0で完勝した試合後、「やっぱり場数を踏んでいると違うんだな。素晴らしいなと思って見ていました」とヒーローの働きを絶賛した。


 お立ち台で背番号13は、「必死に走って、必死に捕りました」と笑ってみせたが、キャンプからオープン戦にかけて、メディアの注目は佐々木俊輔や秋広優人といった若手外野手のポシション争いで、35歳のベテランが話題になることはほとんどなかった。梶谷のオープン戦は8試合のみの出場だったが、14打席という少ない出場機会で1本塁打を含む打率.357をマーク。いわば、焦らず腐らず自分のできる仕事をまっとうしたわけだ。ときに慣れないファーストミットを手にしてまで。そして、結果的にオドーアの代役を勝ち取るのである。


 古巣の横浜スタジアムでは、かつての梶谷のようにDeNAの「1番右翼」でスタメン出場したゴールデンルーキー度会隆輝が、プロ初アーチを放つ衝撃デビューを飾った。プロ1年目の21歳と18年目の35歳のそれぞれの開幕戦だ。甲子園で球児たちは青春を懸けて白球を追うが、大人たちが己の人生をぶつけあうのがプロ野球の魅力である。


 恐らく、巨人は退団したオドーアの代役の外野を守れる新外国人選手の調査を続け(中田翔やウォーカーの移籍の影響でベンチのパワー不足を感じさせるのも事実だ)、開幕2戦目に2年ぶりの安打を放った松原聖弥や代打で二塁打を放った萩尾匡也らも虎視眈々とチャンスをうかがっていることだろう。梶谷は今後もときに外野スタメン、ときに勝負どころの代打としてスタンバイという、原政権時代の亀井善行(現外野守備兼走塁コーチ)のような役割を求められるはずだ。


 昨季は「年俸2億円の育成選手」と揶揄される屈辱の背番号005でキャンプイン。今季もほんの1週間前までは控え外野手の立ち位置だった35歳が、気がつけば開幕戦勝利の立役者に。新生阿部巨人の歴史は、オレはまだ終わらないと意地を見せた梶谷隆幸によって始まったのである。


文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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