夏の甲子園出場をかけた地区大会も、いよいよ大詰め。今季から新監督として采配を振るう巨人・阿部慎之助、楽天・今江敏晃、ソフトバンク・小久保裕紀の3監督も、もちろん、高校時代は球児として甲子園を目指していた。
3人の中で唯一甲子園に出場しているのが、今江監督だ。
中3のとき、全国制覇をはたし、ボーイズリーグの日本選抜チームの主将として世界大会でも優勝した今江は、ボーイズの先輩から「甲子園に行くだけならほかの高校でもいいけど、プロに行きたいのならウチに来い」と誘われたことがきっかけでPL学園に進んだ。
1年秋から4番を打ち、翌2000年夏、大阪大会で打率.478をマークして、甲子園出場を決めた。1回戦で札幌南に7-0と快勝し、今江も2安打2打点の活躍。2回戦屈指の好カードとなった明徳義塾戦では、同学年のエース・朝井秀樹（元近鉄など）の投打にわたる活躍で、9-4で勝利した。この日は8月15日の終戦記念日とあって、「試合中にサイレンが鳴って黙とうしたことが、とても印象に残っている」という。
だが、3回戦でこの大会を制した強力打線の智弁和歌山に7対11と打ち負け、先発野手の中で唯一無安打に終わった今江は「技術面がまだ足りないな」と翌年の雪辱を誓った。
最後の夏は、中村剛也（現西武）の大阪桐蔭とともに優勝候補に挙げられていたが、予選直前に不祥事で出場辞退。「とても悔しかったけど、その分プロで頑張ろうと思いました」。
“幻の最強チーム”からは、今江、朝井のほかに桜井広大（元阪神）、小斉祐輔（元ソフトバンクなど）と計4人がプロ入りしている。
「よく物心ついたころから野球をしているなんて言うけど、僕の場合は、物心のつくずっと前から野球をやってたんですよ」と回想するのは、阿部監督だ。
習志野時代に同期の掛布雅之（元阪神）とともに夏の甲子園に出場した父に、まだおしめも取れていない時期から草野球の試合に連れていかれた。応援に来ていた知人たちが何かにつけて構ってくれるのが楽しくて、「いつしか野球が大好きになっていた」という。
中学時代はそれほど注目されるような選手ではなく、一般受験で安田学園へ。1年夏の東東京大会は、6番サードで出場。チームは準決勝まで勝ち進み、帝京に3-4と惜敗した。
そして、これが高校3年間で最も甲子園に近づいた戦績だった。2年夏は4回戦で雪谷に1-6、4番捕手・主将の重責を担った3年夏は3回戦で関東一の武田勝（元日本ハム）に完封され、0-10の5回コールド負け。高校通算38本塁打を記録した阿部だったが、最後の夏は、四球攻めにあい、打たせてもらえたのは、わずか2打席だった。
「（この悔しさを）バネにしないといけない」と武田への雪辱を誓った阿部は、中大進学後の1999年秋、1部、2部入れ替え戦で武田の立正大と再対決。1勝1敗のタイで迎えた3回戦の3回無死一塁、武田から右越えに試合を決める2ランを放ち、高校時代の借りを返した。
前出の阿部監督同様、地区大会準決勝で涙をのんだのが、星林時代の小久保監督だ。
中学時代からプロを目指し、監督が熱心に誘ってくれたばかりでなく、「軟式野球のトップクラスを集めている」星林に入学した。だが、小久保の入学時は3年生が2人だけ。部員は新入生を合わせても13人と、まだこれからのチームだった。
そして、2年後の1989年夏、チームは県下でもトップクラスの強豪に成長し、3番打者の小久保はセンターを守る一方、同学年の2投手とともに右の本格派トリオを構成した。
初戦の吉備戦は、先発・小久保が5回を1失点に抑え、11-1で6回コールド勝ち。3回戦で日高中津に7-1、準々決勝は那賀に7-0と快勝し、甲子園まであと2勝。小久保も3試合で10打数6安打5打点と打ちまくった。
だが、準決勝の桐蔭戦は同点の5回に2点を勝ち越され、7回からリリーフした小久保も2失点と踏ん張れず、2-7で敗れた。
「負けたときは、胸にポッカリ穴が開いたという感じで……。最後のチャンスだったから、悔しかったですね」。決勝でその桐蔭を延長戦の末に下し、甲子園切符を手にしたのは、くしくも1年生の弟・隆也がエース格の智弁和歌山だった。
このほかの9人の監督は、甲子園出場組が多く、PL学園の主将として1987年に史上4校目の春夏連覇を成し遂げた中日・立浪和義監督、箕島のエースとして1983年夏にベスト16入りしたロッテ・吉井理人監督、広島工の控え投手兼一塁手として1986年に春夏連続出場のヤクルト・高津臣吾監督、1973年夏に1年生で北陽（現関大北陽）のレフトを守り、8強入りした阪神・岡田彰布監督の名が挙がる。西武・渡辺久信監督代行も前橋工1年の1981年夏にエースとして甲子園に出場している。
惜しくも甲子園には届かなかったが、日本ハム・新庄剛志監督は西日本短大付の1番打者、DeNA・三浦大輔監督は奈良・高田商のエースとして、いずれも地区大会決勝進出。新庄はサイクル安打、三浦も天理から12奪三振を記録した。
また、広島工の4番主将だった広島・新井貴浩監督は、県大会3回戦で優勝候補の広陵を6－2で下したが、4回戦で西条農に4-5と惜敗。秋田・鷹巣農林の強肩強打の捕手だったオリックス・中嶋聡監督も、最後の夏は県大会準々決勝で、9回裏に追撃タイムリー二塁打を放つも、横手に5-8で敗れた。
文＝久保田龍雄（くぼた・たつお）
3人の中で唯一甲子園に出場しているのが、今江監督だ。
中3のとき、全国制覇をはたし、ボーイズリーグの日本選抜チームの主将として世界大会でも優勝した今江は、ボーイズの先輩から「甲子園に行くだけならほかの高校でもいいけど、プロに行きたいのならウチに来い」と誘われたことがきっかけでPL学園に進んだ。
1年秋から4番を打ち、翌2000年夏、大阪大会で打率.478をマークして、甲子園出場を決めた。1回戦で札幌南に7-0と快勝し、今江も2安打2打点の活躍。2回戦屈指の好カードとなった明徳義塾戦では、同学年のエース・朝井秀樹（元近鉄など）の投打にわたる活躍で、9-4で勝利した。この日は8月15日の終戦記念日とあって、「試合中にサイレンが鳴って黙とうしたことが、とても印象に残っている」という。
だが、3回戦でこの大会を制した強力打線の智弁和歌山に7対11と打ち負け、先発野手の中で唯一無安打に終わった今江は「技術面がまだ足りないな」と翌年の雪辱を誓った。
最後の夏は、中村剛也（現西武）の大阪桐蔭とともに優勝候補に挙げられていたが、予選直前に不祥事で出場辞退。「とても悔しかったけど、その分プロで頑張ろうと思いました」。
“幻の最強チーム”からは、今江、朝井のほかに桜井広大（元阪神）、小斉祐輔（元ソフトバンクなど）と計4人がプロ入りしている。
「よく物心ついたころから野球をしているなんて言うけど、僕の場合は、物心のつくずっと前から野球をやってたんですよ」と回想するのは、阿部監督だ。
習志野時代に同期の掛布雅之（元阪神）とともに夏の甲子園に出場した父に、まだおしめも取れていない時期から草野球の試合に連れていかれた。応援に来ていた知人たちが何かにつけて構ってくれるのが楽しくて、「いつしか野球が大好きになっていた」という。
中学時代はそれほど注目されるような選手ではなく、一般受験で安田学園へ。1年夏の東東京大会は、6番サードで出場。チームは準決勝まで勝ち進み、帝京に3-4と惜敗した。
そして、これが高校3年間で最も甲子園に近づいた戦績だった。2年夏は4回戦で雪谷に1-6、4番捕手・主将の重責を担った3年夏は3回戦で関東一の武田勝（元日本ハム）に完封され、0-10の5回コールド負け。高校通算38本塁打を記録した阿部だったが、最後の夏は、四球攻めにあい、打たせてもらえたのは、わずか2打席だった。
「（この悔しさを）バネにしないといけない」と武田への雪辱を誓った阿部は、中大進学後の1999年秋、1部、2部入れ替え戦で武田の立正大と再対決。1勝1敗のタイで迎えた3回戦の3回無死一塁、武田から右越えに試合を決める2ランを放ち、高校時代の借りを返した。
小久保監督はわずか「13人」の野球部に入った
前出の阿部監督同様、地区大会準決勝で涙をのんだのが、星林時代の小久保監督だ。
中学時代からプロを目指し、監督が熱心に誘ってくれたばかりでなく、「軟式野球のトップクラスを集めている」星林に入学した。だが、小久保の入学時は3年生が2人だけ。部員は新入生を合わせても13人と、まだこれからのチームだった。
そして、2年後の1989年夏、チームは県下でもトップクラスの強豪に成長し、3番打者の小久保はセンターを守る一方、同学年の2投手とともに右の本格派トリオを構成した。
初戦の吉備戦は、先発・小久保が5回を1失点に抑え、11-1で6回コールド勝ち。3回戦で日高中津に7-1、準々決勝は那賀に7-0と快勝し、甲子園まであと2勝。小久保も3試合で10打数6安打5打点と打ちまくった。
だが、準決勝の桐蔭戦は同点の5回に2点を勝ち越され、7回からリリーフした小久保も2失点と踏ん張れず、2-7で敗れた。
「負けたときは、胸にポッカリ穴が開いたという感じで……。最後のチャンスだったから、悔しかったですね」。決勝でその桐蔭を延長戦の末に下し、甲子園切符を手にしたのは、くしくも1年生の弟・隆也がエース格の智弁和歌山だった。
このほかの9人の監督は、甲子園出場組が多く、PL学園の主将として1987年に史上4校目の春夏連覇を成し遂げた中日・立浪和義監督、箕島のエースとして1983年夏にベスト16入りしたロッテ・吉井理人監督、広島工の控え投手兼一塁手として1986年に春夏連続出場のヤクルト・高津臣吾監督、1973年夏に1年生で北陽（現関大北陽）のレフトを守り、8強入りした阪神・岡田彰布監督の名が挙がる。西武・渡辺久信監督代行も前橋工1年の1981年夏にエースとして甲子園に出場している。
惜しくも甲子園には届かなかったが、日本ハム・新庄剛志監督は西日本短大付の1番打者、DeNA・三浦大輔監督は奈良・高田商のエースとして、いずれも地区大会決勝進出。新庄はサイクル安打、三浦も天理から12奪三振を記録した。
また、広島工の4番主将だった広島・新井貴浩監督は、県大会3回戦で優勝候補の広陵を6－2で下したが、4回戦で西条農に4-5と惜敗。秋田・鷹巣農林の強肩強打の捕手だったオリックス・中嶋聡監督も、最後の夏は県大会準々決勝で、9回裏に追撃タイムリー二塁打を放つも、横手に5-8で敗れた。
文＝久保田龍雄（くぼた・たつお）
