第108回全国高校野球選手権 茨城大会は4日に開幕し25日に決勝戦が行われる予定

◆ 白球つれづれ2026・第27回

 野球界に茨城から、新鮮で衝撃的な風が吹いてきた。

 第108回全国高校野球の地方大会が各地で熱戦を繰り広げている。中でも、耳目を集めたのが5日に行われた茨城大会だ。

 1回戦に登場したのは通信制で今春に創設された四谷学院。元々、予備校として名高い同校が「文武両道」を旗印に「甲子園を目指す」と高校教育に参戦。オール1年生の部員15人だけで、県内の強豪校であるつくば秀英に挑戦すると、なんと7-0で8回コールド勝ちをおさめたのだ。ちなみに、つくば秀英と言えば現在阪神で活躍する大山悠輔選手らを輩出した強敵。これぞミラクル!これだから高校野球は何が起こるか、わからない。

 今年4月に茨城県筑西市に開校された。同校の植野治彦理事長は、予備校ではなく、通信制高校を立ち上げた動機を「困っている人を助ける」ことからスタートしたと言う。

 近年、不登校児童の増加や、いじめ問題など劣悪な教育環境が問題となっている。そこで「やれば出来る」。「勉強は楽しい」を理念に新たな教育の場を提供。その中で「文武両道」を理想に掲げる。

 「体を動かすことで、直感が鍛えられる。“勉強モード”と“遊びモード”の切り替えが教育には重要になる」(26年2月掲載の経済界ウェブより)

 全国には、中学から高校へ進学する時の進路を迷う生徒も多い。極端な言い方をすれば「東大を目指すのか? それとも甲子園を目指すのか?」それとも、どちらも目指さないのか? 四谷学院は予備校として積み上げた勉学のメソッドに加えて、甲子園も目指す新たな教育環境を提供しようとしたのだ。

 授業はオンラインでも、新設された野球部は全寮制。野球グラウンドの確保から室内練習場やバッティングセンターまで併設した費用は総額8~10億円に上ったと言う。

 施設だけではなく野球部監督には、プロ野球の日本ハムで長く選手教育ディレクターとして、大谷翔平選手らも指導、神奈川・光明学園相模原高の監督も務めた本村幸雄氏を招請。文字通り「個別指導」の強化が始まっている。

 この日の、つくば秀英戦で先発、6回まで無失点の好投を見せた松本颯志投手も同校の教育方針に共鳴して入学を決めたと言う。

 これこそが、同校の狙い。本村監督も試合後には「選手には100点満点をあげたい。感謝の気持ちでいっぱいです」と昂奮を隠せなかった。

 高校野球は、一方で大きな曲がり角に直面している。

 年々進む少子化は野球人口の減少も招き、今年度の地方大会参加校は3363校で、昨年から317校減。5年前の22年からも400校近くが減っている。さらに生徒数不足による統廃合や1校では参加できない連合チームも年々増えている。

 酷暑化が進み、従来の9回制でいいのか? 7回制への移行や大会の時期そのものまで議論が進む。

 こうした少子化やそれに伴う学校経営のあり方が変わっていく中で、本来は予備校だった学校が、高校の経営やネ甲子園出場を目指して参入することは、苦しい台所事情を考えれば、むしろ歓迎すべき動きだろう。

 四谷学院の次回対戦は10日に、甲子園出場もあるシード校・霞ヶ浦と激突する。普通に見れば1年生だけ15人で横綱級に勝利するのは並大抵のことではない。しかし、まだ四谷旋風を見てみたいファンも多くいるはずだ。

 現在15人の部員が開校2年目、3年目でどれだけの部員数になり、どんな野球部に生まれ変わっていくのか?

「茨城の風」に、まだまだ注目していきたい。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

この記事を書いたのは

荒川和夫

1975年スポーツニッポン新聞社入社。野球担当として巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)等を歴任。その後運動部長、編集局長、広告局長等を経て現在はスポーツライターとして活動中

荒川和夫 の記事をもっと見る

もっと読む