『パワフルプロ野球2026-2027』

 「サクセスの原点といえば、元ロッテの小林至が書いた『ボクの落第野球人生』です。理不尽なコーチの下でもがく彼の姿が描かれている、実話なんですけど。(サクセスモード初登場の)『3』では、この本が土台にありましたね」(実況パワフルプロ野球6 サクセスモード公式完全ガイドブック/双葉社)

 プログラマーの豊原浩司は、27年前のパワプロシリーズ開発スタッフ座談会でそんな裏話を披露している。小林至とは、東大出身で90年代前半に話題になった左腕投手である。練習生から1991年ドラフト8位でロッテ入りするも、公式戦での一軍登板は0。そのわずか2シーズンのプロ生活が、あの国民的野球ゲームに大きな影響を与えていたのである。

 『ボクの落第野球人生』(NHK出版)では生々しい二軍のリアルが描かれている。ある日、小林はコーチから些細なことで注意を受け、直後にそのコーチの子飼いの先輩選手から殴られる。コーチ自らマスコミから注目されていた小林を殴ると問題になる恐れがあったので、子分の選手を使い、殴らせたのである。当時の二軍環境は劣悪で年俸も安く、生活費のやりくりに困り車を売り、電車で片道3時間近くかけて球場へ辿り着き、試合前にヘトヘトに疲れ果てている選手もいたという。そういうテレビや新聞では報じられない時に理不尽なエピソードひとつひとつが、サクセスモードのベースとなったのである。

 2026年6月11日にシリーズ最新作の『パワフルプロ野球2026-2027』(コナミデジタルエンタテインメント)がニンテンドースイッチとPS4(DL専売)で発売された。本作は「サクセス30周年」の記念作品となっている(パワフェスも10周年)。過去作の人気シナリオの再収録に加えて、WBC2026で侍ジャパンの一員となり、世界一を目指す新シナリオも登場。近年のプロ野球ゲームは、一流選手たちの海外流出に悩まされているが、本作では侍ジャパンで大谷翔平と一緒に練習して、バディポイントを貯めて師弟関係を結ぶなんて遊び方も可能だ。WBCモード搭載により、日本人メジャーリーガーだけでなく、アメリカ代表のポール・スキーンズやドミニカ代表のタティスJr.といったMLBスター軍団でも操作できてしまう、いまだ復活を期待する声も多い『実況パワフルメジャーリーグ』シリーズを思い出させる雰囲気だ。

 正直、パワプロの試合中の操作面はすでに完成されたいつものシステムなので、やはり使える選手が一気に増えたというのはありがたい。個人的にまず遊んだのは、ひとりの選手としてプロ野球人生を体験できる「マイライフ」モード。巨人の新人選手で始めると、「2軍監督から聞いていると思うが、お前を1軍に上げるからな」とか、「ほれ。ホームランボールだ」となにかと声をかけてくれる阿部慎之助元監督にしんみりしつつ、彼女候補が歴代最多の24人登場という、ときめきメモリアルベースボール状態を楽しみながら一流選手を目指す。1軍でレギュラーに定着してしまうと、まるで中堅サラリーマンの日常のように、ややマンネリ化して作業感が強まるのが悩みどころだったが、今回から年俸で出来高制度が導入されているのも嬉しい。

 昔パワプロをよくやっていたというオールドファン向けには、第1回WBCからの歴代日本代表選手たちと1打席勝負を楽しめる「対決!レジェントバトル」モードが懐かしい。さらに個人的にオススメしたいのは、「LIVEシナリオモード」だ。リアルタイムで配信される実際に行われたNPB最新試合の1シーンを再現したシナリオはもちろん、前作で初搭載されたユーザーみんなが作成した「オリジナルシナリオ」が異様にマニアックでコアな野球ファンにはたまらない。

 例えば「1980年代」でタグ検索すると、全国の猛者たちが作った1982年10月18日「田尾の5打席連続敬遠の歴史を変えろ」や1988年10月12日「史上最高の40歳、門田博光」。さらには1986年10月27日「秋山バク宙ホームイン」といった昭和球史に残る名シーンをプレイできてしまう。初代のパワプロ94で秋山がサヨナラアーチを放つとバク宙ホームインができたが、当時のパワプロキッズたちが大人になり、子供を寝かしつけた真夜中に令和で再びフルスイングだ。

 もちろん80年代や90年代だけでなく、平成の2000年代以降も「2006年オールスター第1戦の藤川球児vs.カブレラの全球直球勝負」や「2013年の楽天・田中将大」関連、巨人ファンは感涙ものの「2012年の坂本勇人、長野と涙の最多安打」のシナリオもある。ユーザー作成のオリジナルシナリオは、パワポイント稼ぎ狙いの粗いものも目につくが、しっかり検索すると2010年代が最も充実しているので、今のパワプロメインユーザーはこの時代に野球を見始めた世代が多いということではないだろうか。昭和、平成、令和の名場面が世代を超えて共有され、いまや30年以上続くパワプロがプロ野球史の教科書的な役割を担っているのだ。

 今年の夏休みは、夏の甲子園とパワプロの「栄冠ナイン」モードを楽しみつつ、1992年7月5日 の「原辰徳怒りのバット投げホームラン」シナリオを作ってみようかな……と元パワプロキッズのひとりとして、ひそかに思うのである。

文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

この記事を書いたのは

中溝康隆

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。2010年開始のブログ『プロ野球死亡遊戯』が話題に。『文春野球コラムペナントレース2017』では巨人を担当し初代日本一に輝いた。主な著書に『プロ野球死亡遊戯』(文春文庫)『令和の巨人軍』(新潮社)ほか。新刊『巨人軍vs.落合博満』(文藝春秋)も絶賛発売中! 

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