9月連載:個人タイトル“激アツ地帯”を行く
ペナントレースも終盤に差し掛かると、優勝の行方だけでなく、個人のタイトル争いも佳境を迎えている。
目下のところ、パ・リーグの投手部門ではオリックスの山本由伸が最多勝、最優秀防御率など3年連続で主要タイトル四冠独占の勢いなら、セ・リーグの本塁打部門では巨人・岡本和真選手が独走状態で、2年ぶりのタイトル奪還にラストスパートをかけている。だが、多くの部門では、まだまだ激闘が続き、予断を許さない。
各チームとも残り試合はあとわずか。個人タイトルと言う栄誉をかけた男たちの結末も見ものだ。
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パ・リーグのホームランレースが“激アツ”だ。
6日現在(以下同じ)23本塁打でトップを並走するのが、浅村栄斗(楽天)とグレゴリー・ポランコ(ロッテ)の両選手。次いで近藤健介選手(ソフトバンク)が21本、万波中正選手(日本ハム)が20本で追走、トップから5本差までを射程圏内と考えたら18本塁打の柳田悠岐選手(ソフトバンク)を加えてもおかしくない。
中でも最注目はロッテの新外国人、ポランコだろう。
開幕直後の4月末時点では、わずかに1本塁打と出遅れたが、徐々に本来のパワーを発揮し始めると8月は月間8本のアーチをかけて、主役候補に躍り出た。
特筆すべきは、その爆発力である。
7月16日の楽天戦では17、18、19号の固め打ち。さらに8月23日のソフトバンク戦でも1試合3発の離れ業をやってのけている。9月に入っても3戦連発などで、浅村を捉えた。
来日1年目の昨年は巨人に在籍。メジャーの大砲として期待を集めたが、24本塁打ながら、打率は2割4分止まり、オフには整理対象となりロッテに拾われた形でやってきた。同じ「巨人組」ではC.C.メルセデス投手もロッテ入りして先発ローテーションの一角を担っている。元巨人の澤村拓一投手とは「ブラザー」と呼び合う仲だ。投打ともに外国人選手が振るわない古巣にとっては、これでポランコに本塁打王でも獲られたら、担当者の責任問題にも発展しそうだ。
本塁打レースの顔ぶれを見ると「実績の浅村」「熟練の近藤、柳田」に「無限の可能性の万波」そして「怪物パワーのポランコ」と多士済々。
過去に本塁打王1回、打点王2回を獲得する浅村は、調子の波を掴むと手が付けられない。7月に月間9発を記録すれば、1試合2ホーマーもすでに5度ある。
突如、本塁打レースに躍り出た近藤は、入団以来昨年までの11年間で52本しか記録していない中距離打者が長距離砲に大変身。
日本ハムからFA移籍したことで、心機一転。さらにホームランの出にくかった札幌ドームからペイペイドームに本拠地が移ったことで量産につながったのだろう。もっとも、チームは目下、楽天と激しいAクラス争いの最中で、柳田と共に首位打者レースでも好位置につけている。こちらはすべて一発狙いとはいかない状況である。
日本ハム・新庄剛志監督が「将来のスーパースター候補、何とかホームラン王を」と激賞する万波は長打力に加えて、俊足、強肩を併せもつ23歳。一時は浅村の背中を捉えたが、先月23日以来、ホームランが途切れているのが気がかりだ。残り試合数もライバルたちより3~4試合少ないので、早めの再爆発が待たれる。
巨人・岡本の37本に比べてパの本塁打王争いは、飛び出す者がいないので混戦模様となっている。セに比べて優秀なパワーピッチャーが多い分、量産は容易でない。それでも時間と共にチームに馴染み、パリーグの野球への研究が進んだことがポランコの急上昇を裏付ける。
今や、チームの顔であり、生命線ともなりつつあるポランコ。ロッテは意外な「掘り出し物」を手に入れた。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)