コラム 2024.09.30. 17:45

3つの光景から読み解く阿部巨人のV【白球つれづれ】

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巨人・阿部監督 (C)Kyodo News

白球つれづれ2024・第36回


 巨人・阿部慎之助監督が10度、宙に舞った。

 9月28日の広島戦(マツダスタジアム)に快勝した巨人が4年ぶり48度目のリーグ優勝を果たした。

 一時は広島や阪神と激しいデッドヒートを繰り広げたが、ここ一番の接戦を制して球団創設90周年のメモリアルイヤーに花を添えた。

 胴上げの場面では、涙を流した阿部監督。巨人初の捕手出身監督らしく、投手力の再整備を含めたディフェンス力の向上で、ミスの少ない、僅差で勝てるチームを作り上げた。

 優勝翌日のスポーツ報知紙面では長嶋茂雄終身名誉監督が「まるで森祇晶のよう」とV9巨人時代の名捕手の名を出して称えている。先輩だろうが、生意気と言われようが信念を曲げずにチームを引っ張った頑固なまでの我慢強さを指揮官の強みと評価。後に西武で名監督の座を射止めた森氏と同様の可能性を新監督に感じ取ったのだ。

 シーズン中は厳しい表情を続けて、時には辛辣な言葉も選手たちに浴びせた。二軍監督時代には「鬼軍曹」とも呼ばれ、古い体質の指揮官像が一部では時代錯誤と不安視されたこともある。

 ところが、祝勝会での阿部監督は選手全員から手荒い祝福のビールシャワーを浴びた。主将の岡本和真選手からは「こんなところで泣いていたら、日本一の時は失神するのかな?」と笑われるほど。近年、これだけビールを浴びた監督は記憶にない。


 これは逆に見れば選手と監督の垣根の低さを感じ取れる。

 ベテランと若手の融合をチーム方針として、失敗を恐れずに、走塁面では「暴走族になれ」と積極野球を後押しした。指揮官の号令のもとでチームとしてまとまれたから栄光もつかめたのだ。「阿部一家」の結束力が見えた祝勝会だった。

 このビールかけの場に19歳の若武者も参加した。後半戦に目覚ましい活躍を見せた浅野翔吾選手だ。

 アルコールは御法度の年齢とあって首からは「お酒をかけないでください」と書かれたカードをぶら下げ、顔にもフェースガードを用意。それでも坂本勇人選手らに炭酸水をかけられて、優勝の余韻にしたった。

 阿部監督が打撃センスや、勝負に対する姿勢を高く評価する入団2年目のホープ。十代でのレギュラー格野手起用はその坂本や、松井秀喜氏ら限られたレジェンドに次ぐもの。球団としても時代のスター候補生として、露出アップを図っている。

 優勝直後に日本テレビ系列で放送された特別企画では坂本、岡本和の新旧主将に交じって浅野が出演している。いかに球団が浅野に期待しているのかをうかがわせる光景だった。

 このインタビューでは坂本から“爆弾発言”も飛び出した。隣りに座る岡本に向かって「和真(岡本)も、いつメジャーに行くかもわからんし」とからかい半分に語っている。

 岡本のメジャー志向は昨年のWBC世界一後に語られるようになった。だが、チームの主将で不動の4番を球団がそう簡単に手放すとは思えない。それでもチーム内で冗談交じりとは言え、日頃から語られていることをうかがわせる発言である。

 単なる坂本のリップサービスだったのか? 少しアルコールが入ったうえでのオーバランだったのか? いずれにせよ、シーズン終了後の大きな話題となりそうだ。

 阿部監督の祝勝会大はしゃぎと、浅野の露出増と、岡本のメジャー挑戦問題。

 一夜にして、これだけの話題を提供できるのも4年ぶりの主役に返り咲いた人気球団らしい。

 近年のリーグ優勝監督は昨年の阪神・岡田彰布を除いてヤクルト・高津臣吾、オリックス・中嶋聡、そして今季はソフトバンク・小久保裕紀、巨人の阿部慎之助といずれも二軍監督経験者が占めている。

 自らが鍛えた若手も大胆に起用、戦力に厚みを持たせているのが特徴だ。

 今年の球団指針は「新風」。ポストシーズンでも阿部巨人はどんな「新風」を吹かせるのか? 新指揮官の次なる挑戦が始まる。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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