◆ 追い求める師匠の姿
横浜スタジアムの夜空に描かれた鮮烈な放物線。勝又温史が放った待望のグランドスラムは、ファンの大歓声を呼び起こしただけでなく、彼自身の確かな進化を証明するものとなった 。
今までの2本のホームランはともに左ピッチャーから。今回右ピッチャーからの一発という大きな収穫を得てもなお 「1年前の自分を考えたら夢のような状況。調子に乗るなんてありえない」と足元を見つめる 。
現在ベイスターズの1番打者として躍動する勝又の胸には、切り込み隊長としての明確な心得が刻まれている。 いの一番に打席に入る大役を任され、26試合連続出塁を続けているが、1番の役割には「分からないことだらけで、スポンジのように吸収している状態」と試行錯誤中だと明かす。
そんな彼が打席に入る際、貪欲に映像を見返して参考にしているのが、昨年までベイスターズのトップバッターとして活躍し、自主トレをともにする桑原将志の姿 。師と仰ぐ“ガッツマン”がどのように打席に入り、どうやってチームに勢いをもたらしているのか。「クワさんの映像をめちゃくちゃ見ています。クワさんはこうやって1番として打席に入るんだなとかをすごく参考にして、いろんなことを吸収してやっています」。
どんなときでも手を抜かず、必死にボールに喰らいついた師匠を追いかける。その姿勢があるからこそ 、徹底的な内角攻めや厳しいマークさえも「自分の引き出しが増える」と歓迎し、さらなる成長の糧へと変えている。
◆ 2番・牧の安心感
またこの1番打者としての出塁への執念を、背後から支えているのが2番に入る牧秀悟の存在だと明言する。
「これ以上に思い切っていけるシチュエーションはない。僕がダメでも牧さんがなんとかしてくれる」。牧に対しての絶対的な信頼感。後ろの牧へとつなぐ意識が、打席での精神状態をプラスに働かせる。
「自分が塁に出ることで、ソロホームランをツーランホームランに変えられるかもしれない」とワクワクした気持ちが、恐れることなく初球から自分のスイングを仕掛けられる要因にもなっている。
そして勝又が1番バッターとして何よりも大切にしている矜持がある。それは単に自分の出塁率を上げることだけではない。1番で起用されたのは6月21日から。それまでは後ろの打順を打ち、トップバッターが放つエネルギーを感じていたからこその重要性を、客観的に理解している。
「僕の打席を見て、なるべく後ろのバッターが『いけるかも』と勇気を持って打席に入れるようにしたい」。
その言葉通り、アグレッシヴにバットを振りつつも、厳しいボールはカットするなど、相手ピッチャーに球数を投げさせる“嫌らしい”バッターの一面も見せ始めている。
相川亮二監督も野球への取り組みに加え、期待に応えている現状に喜びを隠さない。
「結果が全てです。泥臭いヒットも打ちますし、いいヒットも打ちます。長打も打てます。期待が持てる選手ですよね。何しろ隙のない選手なので、継続して結果が出せていると思います」。
新指揮官の求める役割をこなし、一歩一歩主力としての階段を登っている勝又温史。ファンに愛された師匠の意思を継ぎ、今日も“かっちゃん”はグラウンドを全力で駆け抜ける。
取材・文 / 萩原孝弘