社会人出身で、即戦力を期待されてプロ入りした成瀬脩人。堅守と打力を兼ね備えたアマ屈指の内野手は、4月下旬から一軍でプレーしたが、約1ヶ月で再び横須賀の地で泥に塗れる日々を過ごしている。
その積み重ねがいま、如実に数字に現れている。ファームでも6月まで打率は2割に届かず結果が残せずにいたが、夏場以降はそのバッティングが一変した。7月以降、打率は3割を超え、OPSも.900に迫る勢いを見せるなど、確実性に加え力強い長打が目立つようになっている。一見して分かる打撃変貌の裏には、成瀬本人と指導陣が取り組んだ明確なスイング改善と、地道な肉体改造があった。
◆ 「最短距離で確実に入れ込む」——村田二軍監督の教えと掴んだコツ
成瀬の打撃が劇的な変化を遂げた最大の要素は、バットの軌道修正にある。村田修一・二軍監督は、前半戦の打撃を分析する。
「プロのレベルはアマチュアで上の人たちが集まっている集団。アマチュア時代のイメージのままヘッドを下げて角度をつけようとすると、最短距離で出てこないから遅れてファウルになるし、波打つようなスイングになってサードゴロやショートゴロのボテボテが増えてしまう。だから『最短距離で出さないとダメだ』と伝えました」
チーム全体に浸透しつつあるShortにコンタクトし、Hardにボールを捉える”ショーハ”の意識が、成瀬の打撃を改善させた。 村田二軍監督の指導を受け、田代富雄巡回打撃コーチ、大野貴洋二軍野手育成コーチらのアドバイスを取り入れながら「最短距離」の意識と「バットの出し方」のコツを掴んでいった。
「以前は長打を打とうとして振りすぎていた部分がありました。でもテーマとしてやっている“ショーハ”を意識することによって、捉えたら打球がすごく飛んでいくんだなと気づきました。バットの出し方のコツを掴んだことで、自然と打球に角度がつくようになり、それが今の長打に繋がっていると思います」
本人の手応えと同じく、村田二軍監督も変貌に目を細める。「打撃練習でも試合でも、センターから逆方向への長打が増えてきていますよね」
ただ、これだけで満足するわけにはいかない。「レフト方向への引っ張りの長打がほとんどないのが次の課題。ヒットもゴロヒットしかない。センターから逆方向への意識でプロの体感速度に慣れた次は、引っ張りで強い打球を打てるようになること」
波打つスイングから脱却し、まずは確実にボールを捉える。その次は、強く引っ張る。成瀬の打撃は、ひとつの課題をクリアしたことで、次のステージへと進もうとしている。

◆ 「エンジンをデカくする」——社会人出身としての覚悟とウエイトトレーニング
スイング軌道の修正に加え、打球速度と飛距離を底上げしたのがプロ仕様の身体作り。
成瀬は「アマチュア時代は年間通してウエイトトレーニングをする習慣がなかった」と明かす。しかし、プロのレベルを目の当たりにし、周囲の取り組みに刺激を受けた。
「エンジンの部分をデカくしないと、この世界では通用しないと感じました。まずは身体を強くしてパワーをつけることに重点を置きました。みなさん試合前でも平気でウエイトしてますから」
アマとプロの違いを目の当たりにし、強固な土台の必要性を知った。その結果、アナリストのデータでも平均打撃速度の上昇が実証された。「そんなに力を入れずに振っても意外と飛んでいく感覚があります」。力任せに振るのではなく、身体の力を効率よくバットへ伝える。その感覚を掴んだことで、スイングの改良と肉体改造が一本につながった。
確実に成長を感じている。しかし社会人出身の25歳だけに、村田二軍監督からは「高卒の選手より5年近くアマチュアで時間を過ごしているのだから、彼らが10やるなら12や13をやらないと追いつかないよ」と常にハッパをかけられてきた。
成瀬自身もその覚悟はある。「高卒の子とは違うので、技術を高めながらトレーニングもしっかり継続していきたい」
バットの軌道を変え、身体を変える。二つの変化が、夏場以降の打撃を支えている
「追い越してショートのレギュラーへ」——一軍での手応えと課題
定着は成し遂げられなかったが、春先に一軍で約20試合を経験したことは、成瀬にとって大きな財産となった。
「一軍レベルのピッチャーと対戦して『全然通用しないな』とは感じなくて、自分もやれるなっていう手応えを得られました。その上で、ファームに落ちた時に何が必要かをコーチやスタッフと話し合って取り組んできた結果が、少しずつ形になってきている」
一軍で感じたのは、圧倒的な力の差ではなかった。だからこそ、ファームに戻ってから取り組むべきことが明確になった。
また高い守備力も成瀬のセールスポイント。藤田一也内野守備コーチも「うまいですよ」と評価する。ただそこにも「確実性や送球の安定性、連動性もですね。年間通してエラーを0にするためには、基礎の部分をしっかり磨いていかないと」と自身の武器を再確認し、高みを見据える。
さらに同期入団で一軍で活躍を見せる宮下朝陽の存在も大きな刺激になっている。
「同じ二遊間を守る右投げのショートとして、負けたくない気持ちはすごく強いです。いますごい活躍していて嬉しい気持ちもありますが、悔しい気持ちもありますね。いつか二遊間を組みたいですけれども、宮下を追い越して、ショートのレギュラーを取るつもりでやっていきます」。
同期への敬意とライバル心。その両方を胸に、鍛錬を続ける成瀬。
しかし、村田二軍監督は成瀬が一軍でレギュラーとして生き残るための「次の課題」を厳しく指摘する。
「あとは精神面。たまに8割ぐらいの力で野球をやろうとするところがある。8割でやるのは一軍に行ってから。ファームでは100%の10割でやらないと。ボール回しも練習も身体作りもです。1週間出続けられる体力を100%で挑んで作っていかないとレギュラーは取れない」
一軍で結果を残すために、ファームで何を積み重ねるのか。そこまで含めて、成瀬にはまだ伸びしろがある。
「最短距離」のシャープなスイングと「大きく育ちつつあるエンジン」を手にした成瀬脩人。2つの進化をさらにブラッシュアップさせ、横浜スタジアムへ向かって邁進していく。
取材・文 / 萩原孝弘