コラム 2023.12.25. 18:30

哲人たちの冬【白球つれづれ】

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ヤクルト・石川雅規(C)Kyodo News

白球つれづれ2023・第52回


 行く人、来る人。年末になるとスポーツ界の去就が話題を呼ぶ。

 ドラフトでプロの入り口に立ち、夢膨らませる選手もいれば、戦力外通告を受けて人生の再出発を余儀なくされる男たちもいる。基本的には球団との年度契約である以上、力のない者は去るのがプロの掟だ。
 弱肉強食の世界にあって、しぶとく生き抜く戦士たちもいる。

 現役最年長選手、ヤクルトの石川雅規投手が今月20日の契約更改に臨み2250万円ダウンの6750万円でサイン。(金額は推定、以下同じ)44歳のシーズンを迎えることになった。

 プロ22年目の今季は自己ワーストタイの2勝止まり。2015年の13勝をピークに年々、白星の数は減っているが、念願の200勝まではあと15勝。巧みな投球術と野球に取り組む真摯な姿勢は若手の手本にもなっている。

 2年連続セリーグ連覇から一転、5位に沈んだ今季は故障者続出もあって、投手陣の弱体化が浮き彫りになった。チームでは若返りが求められているが、一方では大ベテランの手も借りなければならない。

 「自分にとっても来シーズンが本当の意味での勝負の年になる」。まさに“背水の陣”を公言して退路を断った。

 ヤクルトにはもう一人の最年長男もいる。41歳の野手最年長・青木宣親選手だ。こちらも3億4000万円から、限度額を超える2億円減の1億4000万円で再出発が決まった。

 日米8球団を渡り歩いてきた安打製造機も、今季は外野のレギュラーから外れ打率.253と低調な数字に終わっている。

「この年齢でも必要としてくれるのは有り難い」と語る青木だが、このまま控えに甘んじる気はない。何度も戦力外の危機に立ちながら踏ん張ってきたメジャー時代。「粘って、粘ってこの世界で20年やってきた」と言うしぶとさで来季の復活を目指している。日米通算2703本の安打を量産してきた数字をどこまで伸ばせるか、チーム再浮上のキーマンでもある。

 石川が身長167センチなら、青木も175センチと決して恵まれた体格ではない。

 だが、小兵だからこそ人一倍の練習に励み、誰にも負けない技術を磨いてきた。グラウンドに立てば、新人もベテランも横一線。長寿の秘訣は若者にも負けない心とたゆまぬ努力にあることは言うまでもない。


しぶとく生き抜く男たちの生き様


 石川に次ぐ投手の年長はソフトバンクの和田毅、来季が43歳となる。

 こちらは今季も8勝をマークするなど先発陣の一角を担う左腕エース。今でもストレートで三振を奪う投球を求めて、誰よりも早く球場入りして汗を流すなどプロフェッショナルの鑑のようなベテランである。

 野手で青木と並ぶ最年長には巨人から中日に移籍した中島宏之選手もいる。

 今季はキャンプで右手に死球を受けて出遅れ、7月に一軍昇格を果たすが、結果を残せないまま8試合出場に終わっている。

 チームの若返り策もあって戦力外通告を受けたが、打撃のテコ入れを図る中日に拾われる形で22年目の年を迎えることになった。新たな契約は年俸2000万円プラス出来高。巨人時代の半額にも満たない低額だが、「まだ勝負が出来る」と語る勝負強い打撃は中日にとって貴重な戦力となるはずだ。チームには同じ巨人を自由契約となった中田翔選手も加入。来季の「古巣対決」は大きな注目ポイントとなる。

 24日に行われた競馬のグランプリレース「有馬記念」では54歳の武豊騎手がドウデュースに騎乗して見事に優勝、こちらも現役最年長の卓越した技量が改めて賞賛された。

 野球界では引退後のイチローさんが野球の伝道師として全国の高校球児を指導している。50歳ながら現役顔負けの137キロの速球を記録。自ら「日々の鍛錬のたまもの」と語る。

 WBCの世界一に始まり、岡田阪神の38年ぶり日本一に沸いた23年の球界。大谷翔平の1000億円超の巨額ドジャース入りから山本由伸、松井裕樹投手らのメジャー移籍も決まった。

 日米の野球の垣根は低くなり、技術的な進化は160キロの快速球と150メートルの大アーチを生む。パワー全盛の時代にあって、40歳を過ぎたベテランたちの居場所は年々少なくなっていく。それでもしぶとく生き抜く男たちの生き様は注目に値する。

 鉄人たちにとって、24年はどんな年になるのだろうか? そう簡単には死ねない。正念場の戦いはもう始まっている。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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