コラム 2025.01.10. 17:05

初回ですべてが決まってしまった…球史に残る“スミ1”記録 史上初の珍事も起きた! 

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巨人に“スミ1負け”を喫した阪神 (C)Kyodo News
 昨年、6月25日の西武対日本ハムで、西武が初回に4番・岸潤一郎のタイムリーで挙げた虎の子の1点を先発・渡辺勇太朗ら5投手の継投で守り切り、“スミ1完封リレー”の見出しが躍った。また、8月12日の巨人対阪神では、初回に佐藤輝明のタイムリーエラーで1点を失った阪神がそのまま0-1で敗れ、「スミ1負けで自力V消滅」と報じられた。

 スコアボードの得点のみならず、状況によって幅広く用いられている「スミ1の珍事」を紹介する。史上初の“スミ1球”敗戦投手になったのが、近鉄・高村祐だ。

 2001年5月1日の日本ハム戦、高村はプレーボール直後の初球、144キロ直球を日本ハムの先頭打者・井出竜也にバックスクリーンに打ち込まれ、たった1球で1点を失った。

「たまたま井出の好きなところに行ってしまった」と悔やんだ高村だったが、まだ試合は始まったばかり。気を取り直して、2回以降無失点の5安打1失点で9回まで投げ抜いた。

 ところが、近鉄打線は7回一死三塁のチャンスに、川口憲史がカウント3-0から強引に打ちに行って二飛に倒れるなど、ちぐはぐな攻撃で好投の高村を援護できない。結局、金村暁、カルロス・ミラバルのリレーの前に4安打完封され、0-1で敗れた。

 初回、先頭打者の初球本塁打で試合が決まったのは、NPB史上初の珍事。スミ1球に泣いた高村は「しょうがない。その一言です。自分なりのいいピッチングはできた」と自らを納得させていた。

 一方、幸運な白星を手にした日本ハム・大島康徳監督は「1点のまま終わるとはね。史上初? 確かにあまり記憶にないもんな」と“不思議の勝ちあり”に戸惑い半分だった。


 これまた史上初の“スミ1弾”のみの1安打勝利を記録したのが、2000年の広島だ。

 5月23日のヤクルト戦、広島は1回裏、1番・木村拓也の先頭打者本塁打で1点を先制。これに対し、ヤクルトも4回に岩村明憲のタイムリーで1‐1の同点に追いついた。

 だが、広島はその裏、一死から東出輝裕が投ゴロエラーで出塁し、石井一久の暴投で一気に三進。二死後、前田智徳の遊ゴロが野選となって勝ち越しのホームを踏み、結果的に木村のスミ1弾による1安打のみの2-1で勝利した。

 本塁打だけの1安打勝利は、1995年4月26日のヤクルト・土橋勝征以来12度目、初回先頭打者の1安打だけの勝利も1962年6月30日の南海・広瀬叔功はじめ3例あるが、初回先頭打者本塁打の1安打勝利は、木村が“史上初の快挙”だった。その木村は「勝てば何でもOKなんですよ」とチームの勝利を一番喜んでいた。


「スミ1安打」準完全試合とは…!?


 初回の先頭打者にいきなり安打を打たれたものの、その後、9回まで1人の走者も許さず、“スミ1安打準完全試合”を達成したのが、巨人・定岡正二だ。

 1981年4月11日の阪神戦、定岡は初回、先頭打者の北村照文に左翼線二塁打を打たれたが、無死二塁から加藤博一を見逃し三振、真弓明信を遊ゴロ(北村が走塁死)、掛布雅之を二飛と後続3人をたった6球で打ち取り、無失点で切り抜ける。

 2回以降もストライク先行で、外角低め一杯の球を引っかけさせ、9回まで無安打無四球のパーフェクト。4回に中畑清の1号ソロで挙げた1点を守り切り、最後の打者・北村も空振り三振。シーズン初勝利を見事1安打完封勝利で飾った。

 勝利の瞬間、マウンドで思わずバンザイした定岡だったが、試合後、報道陣から準完全試合と聞かされると、「エーッ、最初のヒットからあとはパーフェクト?全然気がつかなかったよ。オレ、知ってたら絶対ビビッて投げられなかったよ」と腰掛けていたベンチの端から転げ落ちそうになった。


 スミ1安打準完全試合は、阪神・小山正明が1956年6月6日の大洋戦で記録して以来、史上2人目の快挙。小山も初回先頭打者の沖山光利に中前安打を許したあと、引地信之を三ゴロ併殺に打ち取り、以後9回まで1人の走者も許さず、定岡より1人少ない打者27人で達成している。

 ちなみに西鉄・稲尾和久も1957年7月6日の阪急戦で、初回先頭打者のチコ・バルボンに一発を浴びたあと、9回までパーフェクトに抑え、2-1で“スミ1安打1失点完投勝利”を記録している。
 
 一方、“四球病”が原因で、“スミ1敗戦”に泣いたのが、近鉄時代の前川勝彦だ。2000年5月30日のロッテ戦、前川は初回二死二塁から突然ストライクが入らなくなり、石井浩郎、初芝清、立川隆史に3連続四球。押し出しで1点を失った。

 だが、2回以降は立ち直り、8回途中まで散発3安打の無四球と見違えるような快投を見せた。

 ところが、味方打線が8安打を放ちながら、あと1本が出ず、0-1のスミ1敗戦……。梨田昌孝監督は「最初の1点で後手後手に回ってしまった。前川は2回以降悪くなかったけどね」とスミ1失点の影響を指摘し、前川も「ああいう点の取られ方じゃ、打線も乗っていけないですよね」と反省しきりだった。

 前年4月29日のオリックス戦では1イニング5連続与四球のNPBタイ記録をつくり、この年も5月9日のオリックス戦で初回に5与四球の乱調で8失点炎上していた前川は、当時「課題の制球力と立ち上がりの不安定さを克服すれば、エースで10年投げていける」といわれたが、克服できないまま、ちょうど10年でNPBを去っている。

文=久保田龍雄(くぼた・たつお)

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