プロ1年目から首位を走るチームを支えた伊藤将司 (C) Kyodo News

◆ 好スタートを切ったルーキーの「テーマ」は…?

 私事ながら小学生の時、夏休みの宿題は早々に取りかかるタイプで、終業式を終えて帰宅したその瞬間からフライング気味にプリントの山を処理していた。

 ただ、いつも行き詰まったのは「自由研究」という大きな壁…。テーマを決め、試行錯誤しながら自分なりに答えを導き出す。今となっては“すべてが正解”と思えるが、とにかく苦手だった。気づけば、算数や国語で作った“貯金”を食いつぶし、新学期目前まで苦悩していた記憶がある。

 そんなことをふと、五輪ブレークに入ったタイガースを見て思い出していた。

 言うまでもなく、目の前にいる選手たちはいつ何時も、課題を消化しながら高みを目指している。毎日が“自由研究”と言ってもいいかもしれない。

 27日から始まったエキシビションマッチは、勝敗を度外視して個々の課題に向き合える貴重な時間だ。

 28日のロッテ戦。甲子園のマウンドに上がった伊藤将司には明確なテーマがあった。

 「今日は後半戦で自分の投球を広げるために、初めて投げるスライダーであったり、公式戦でこれまであまり投げてこなかった球種を使うという課題を持って投げました」

 新人ながら開幕ローテーション入りを果たした左腕は、前半戦で一度も離脱することなく5勝(5敗)、防御率2.70と堂々たるスタッツをマークし、首位を走るチームに貢献した。

 出所の見づらい投球フォームから低めにボールを集め、凡打の山を量産。アマチュア時代に築き上げたスタイルがプロにも通用することを証明した。

◆ 「ストレートあっての変化球」

 一方で、他球団はデータを蓄積して攻略法を練っている。

 本人の感覚としても、登板を重ねるごとに痛感してきた課題があった。

 これまでは変化量の少ないカットボールを駆使してきており、曲がりの大きなスライダーを配球に加え、投球の幅を広げることにチャレンジしようとしていた。

 結果から言えば、4回7安打6失点で降板。制球面では4四球、2回に打者11人の猛攻を受けるなど、苦しい投球に終始した。

 公式戦なら敗戦投手となって落胆するところだが、登板後に広報から配信されたコメントには収穫もうかがえた。

 「結果的に失点してしまったことはもちろん課題ですけど、スライダーやその他の球種を試してみて、バッターの反応であったりを確認できましたし」

 別の角度から分析したのは矢野燿大監督だ。

 「やっぱり真っ直ぐ(ストレート)あっての変化球やから。押さないと引けない」。

 押して、引いて…。言い換えれば、直球を見せてこそスライダーも効力を発揮するということだろう。

 シーズン中なら「炎上」と表現されるパフォーマンスも、新球の手応えを確かめながら、あらためて直球の重要性という“原点”にも立ち返ることができた80球。今後もエキシビションマッチでの登板を重ね、自力が問われる後半戦へ向かう。

 新球を追い求め、トライアンドエラーを繰り返す時間。“真夏の自由研究”がルーキーの進化を後押しする。

文=チャリコ遠藤(スポーツニッポン・タイガース担当)

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