「まったく同じではありませんが、僕も同じような経験をしたことがあったので、ちょっとでも上を向いてもらえるように声を掛けました」。オリックスのアンダーソン・エスピノーザ投手が、前夜の日本ハム戦(エスコンフィールド)で4連続本塁打を浴びた後輩の佐藤一磨投手に、慈悲の心で接した。
7月3日の午後、神戸市須磨区の「ほっともっとフィールド神戸」、1塁側ロッカーでの出来事だった。当日移動で北海道から球場入りし、西武戦を前にした自主練習を終えた佐藤一に、携帯電話を持ったエスピノーザがそっと近付き声を掛けた。
「何か、スペイン語で話し掛けてくれたのですが、携帯電話の翻訳がうまく働かなくて。意味は分からなかったのですが、気持ちは伝わりました。うれしかったですね」。1軍に再昇格を果たし、今季初先発のチャンスをつかみながら、先頭打者から4者連続本塁打を許し、1死も取れないまま降板した佐藤一は振り返る。
エスピノーザは、翌4日の西武戦での先発登板が予定されていたためチームには同行しておらず、“被弾後”の佐藤一に会うのはその時が初めてだった。「(4連発の後)だいぶフラストレーションが溜まっていると思って。『あれは自分本来の姿じゃなかったんだ。本来の姿ならもっといいピッチングができるんだよ』と言ったんだ」
伝えたいことがあった。「僕も2度目のトミー・ジョン(TJ)手術を受けた後の復帰登板で、全くストライクが入らずフォアボール、フォアボールばかりで、1イニングでマウンドを降ろされることが何回か続いたことがあったんだ。そんな時、自分を責めてしまい、自分のことしか考えられなくなってしまった。彼も似たような気持ちじゃないのかなと思って」。結果は結果として受け入れ、本来の姿を取り戻して前を向くことが大事なんだという学びがあった。「自分を責め続けていれば、大きな“穴”から抜け出せなくなってしまうからね」とエスピノーザ。ロッカーの近くに担当の荒木陽平通訳が見当たらなかったため、携帯電話の翻訳機能を使ったのだが、それほど早く佐藤一に思いを伝えたかったのだという。
ベネズエラ出身のエスピノーザは、来日3年目。日本の文化を愛し、「一番好きな言葉」という「感謝」の漢字をタトゥーで入れ、今年、誕生した長男に「賢造」(ケンゾウ)と名付けたほどの親日家だ。育成時代の佐藤一にも、励ましの声掛けを何度もしてくれた心優しき助っ人。言葉は伝わらなくても、その思いは十分、佐藤一に伝わった。
取材・文=北野正樹