DeNAの入来祐作コーチが、「中4日」の先発で交流戦の最終戦を締めたオリックスの九里亜蓮投手を、頼もしく見守り続けている。
「中4日で登板、大したもんです。立派です。今やオリックスのエースですから」。入来コーチが驚きの声をあげたのは、交流戦最終盤だった。
入来コーチはPL学園(大阪)、亜細亜大、本田技研から1996年ドラフト1位で巨人入り。躍動感あふれるフォームと打者に向かう強気のピッチングでロングリリーフやクローザーなどを務めた。日本ハムに移籍後、MLBにも挑戦し、横浜(現DeNA)で現役を終えた。その後、ソフトバンク、オリックスで投手コーチを務め、現在は、DeNAで2軍チーフ投手戦術・育成コーチとして若手投手の指導にあたっている。九里は岡山理大付高、亜細亜大から2013年ドラフト2位で広島に入団。国内フリーエージェント(FA)権を行使し2025年からオリックスでプレーしている。
亜細亜大出身の二人の再会が、今年4月にあった。ファームの交流戦でオリックスの2軍施設を訪れた入来コーチのもとに、次回の登板に備え調整していた九里が挨拶に訪れた。会話は20分以上続き、入来コーチがバットを振って実演するなど、遠くから見ていても野球談議が白熱しているように見受けられた。
入来コーチによると「アレン(九里)に高めに投げる意識を教えてもらった」という。「今の野球の配球は、昔より結構、高めに投げるということが多いんです。昔は『最短距離で叩け』という言い方をされることが多く、高めの球をコンパクトに振る打者が多かったと思うんです。今は、下から大きく振る打者が多く、意外に高めの球に差し込まれる打者が結構いるんです。高めにウイークポイントがあるんです。だから僕も(若手投手に)高めを使いなさいって言うんです」
九里の答えは、意外なものだったという。「高めと言って、高めを狙うのは難しいと思うので、投げる目安として、ベルトの高さあたりを狙うと言うんです。アレンが速球を高めに投げることって少ないと思うんですが、それでも1試合の中で何球かは高めに通す球があるはずなんです。その時の狙い方というのは、彼にとってすごく重たいこと。説得力のある言葉だったんで、すごくうれしかったですね」と入来コーチ。高すぎれば打者はボールとみて手を出さない。高めを狙えと言われると、どうしても高く投げないといけないと思いがち。高めを狙って甘く入ったら痛打される可能性があり、高く外れたらボールになってしまう。あくまでストライクゾーンの中で、打者にバットをどうやって振らせるかが、九里の高めに対する意識だったようだ。
「高めに投げるというと、ストライクゾーンから離れた高めのイメージを持つ投手が多いんです。まるっきりボール球と考える投手もいるんです。ストライクゾーンは脇の下からですが、あまり脇の下(を審判)は取ってくれない。でも、バットが下から出てくる打者には、(ベルト付近の球は)ファウルや空振りなど捉えきれない球として結構、有効なんです。だから(九里の)『ベルトの高さに投げる』というのは、僕の中では腑に落ちた話だったんです。おもしろいなぁ、いい言葉だなぁと思いましたね。いい時間を過ごさせてもらいました」。高めに投げるという意識はしても、具体的にどの高さに、どのような意識で投げるのか。漠然とした中で答えを導いてくれた34歳の九里の言葉は、53歳の入来コーチの胸に響いた。九里の言葉は、すぐにミーティングで伝え若手投手の意識の変化につながったという。
そんな入来コーチは、約15年前、学生だった九里に「低めに投げる大切さ」を説いたという。「亜細亜へ練習を見に行った時、九里が投球練習をしていたんです。彼はその当時から低めに丁寧に投げることができるピッチャーでした。『なぜ真っ直ぐを低めに一生懸命に投げるのか、低めに投げる重要性っていうのはこういうことなんだよ』っていろんなアドバイスをしたことがあったんです。アレンが覚えているかどうかわかりませんが」と入来コーチ。
九里は「低めにしっかりとある程度まとめて(ボールを)散らしていけば、ゲームはある程度作れますし、困ったときにそこに投げておけば打者と勝負ができる、というお話をしてくださいました。低めに投げる練習をしている中で、そこに投げることができる自信を持つことはプラスなんだと思いました。今のピッチングスタイルにも表れているかもしれないですね」と振り返った九里。様々な球種を低めに集める変幻自在の投球は、そのころのアドバイスが生かされているようだ。
「(当時のことを)覚えていてくれましたか。そこから頑張っている姿をずっと見てきました、頼もしいなと思いながら。身体は強いですよ。(同じ亜細亜大出身の)ヤスアキ(DeNA・山崎康晃投手)も強いですが、(練習の厳しい)亜細亜からカープに行ってますから(笑)」
九里は交流戦で4試合に登板し、1勝1敗、防御率2.55で、両リーグトップの30奪三振をマーク。公式戦には12試合に登板し5勝4敗で、防御率2.76はリーグ7位と奮闘している。指導者になってマウンドから離れ「日々、アップデートが必要」というのが持論の入来コーチ。後輩がアドバイス通りの投球で長く第一線で活躍をし続け、今は現場感覚をフィードバックしてくれる存在になった姿に改めて感激していた。
取材・文=北野正樹