オリックスの2軍担当アナリストの田原鷹優さんが、酷暑の中、若手選手のプレーを優しい目で見守っている。
「悩んで相談に来てくれたり、『こんなデータが欲しい』と言ってくれたりした選手が、けがから復帰して活躍したり1軍で抑えたりするのを見たら、やっていて良かったなと思います。それが一番なんで。達成感があります」
田原さんは埼玉県出身。開智未来高、立命館大から2025年2月にオリックスの戦略データグループにアナリストとして入団した。高校時代は内野手で、プロ野球選手を目指して立命館大に進学し、野球部に入部したが1年を終えて腰椎分離症でプレーを断念。「せっかく入ったのに(野球を)辞めるのはもったいないな、できることは何かないかな」と考えた末に行きついたのが、データ解析だった。2年からアナリスト部門を立ち上げ、学生コーチだった先輩と同期の元選手の3人で始めた。
「数学が結構、得意だった」という田原さんだが、フォーマットもなく試合のデータをパソコンのExcelに書き込むところからのスタートだった。X(旧ツイッター)などで野球のデータ分析をやっている人に直接、連絡を取って話を聞かせてもらったり、強豪の中学チームの練習見学を通して親しくなった人に、アナリストを紹介してもらったりして、基礎的な知識を教わったという。
卒業後は、大学院でバイオメカニズム(生体工学)を専攻。バッティングの動作解析を研究し、「UCM解析による打撃動作の関節間協調の解明」で、2024年の「日本野球学会」一般の部で最優秀賞に輝いた。「置きティーで、毎回、同じようにバットの芯をボールに当てるためには、関節などの動きの調整をスイングのどのタイミングで始めたらいいのか、という内容の研究」だった。
オリックスでは、2軍の投手のデータ解析を担当している。学生アナリストからプロ球団のアナリストになって、2年。最も痛感したのは、コミュニケーションの取り方だった。「大学の野球部では結構、僕が主導してやっていくことが多く、組織で何かをするのは初めての経験でした。新しいことをするためにはいろんな段階を踏まなくてはいけませんし、プロですごい実績を残した方がコーチになられていたり、選手にも実績のある方がたくさんおられたりします。いろんな方がいる中で、自分の立場としてのコミュニケーションの取り方は、すごくいい経験になりました」という。
主な仕事は、試合やブルペン、故障明けのライブ打撃での投球のデータ解析。ボールの回転数やホップ成分、軸の回転などを各投手のタブレットに送信し、投球内容の確認と次回の練習などの参考にしてもらう。投手コーチにはデータにレポートを添えて、指導の参考にしてもらう。約1年をかけて、分析処理を自動化させ解析結果をすぐに引き出せるようになったことで、選手らからの個別のデータ分析の要望に応えている。
大事にしているのは、データ解析から導き出した結果だけが正解でないという点だ。「データ的に二つの数値が出てきた時、その関係を結び付けようと思ったら結びつきます。でも、本当はつながっていないものだったりすることがあるのです。解釈によって結びつけることもできるし、別の物として取り扱うこともできるんです。データとして二つが関係あるような数字が出ていても間違いではありません。データをどう処理するかというところに関わってくるので、数字の中身やその裏の情報を大事に、正確に一つ一つ見ていかなければいけないということを常に考えながらやっています」と明かす。
選手とのコミュニケーションが深まり、送ったデータを基に質問してくる選手も増えた。2年目の上原堆我投手もその一人。花咲徳栄高から2024年育成ドラフト3位で入団した右腕は「自分の調子や感覚と、その日の数値を照らしたいなと思った時などに質問するんです。数値と自分の感覚が合わない時って結構、あるんです。感覚が悪くても数値はよかったり、逆もあります。そんな時に『数値は悪くないから、変に変えなくてもいいと思うよ』と答えが返ってきて安心しました」という。
上原は昨年夏以降、下半身のコンディション不良で戦列を離れたが、今年6月18日のソフトバンクとの2軍戦(タマスタ筑後)で初先発した。結果は2イニング、46球、被安打4、与四球4、4失点で敗戦投手に。「気合が入っていた分、全然ダメで落ち込んでいた」そうだが、「田原さんから『ファームは勉強の場。1軍で初先発した時に同じ失敗をしないためにも、いい経験になったんじゃない』と声を掛けてもらい、メンタル面で助けられました」と感謝する。この日の登板では、上原の感覚と実際のフォームとの違いも、指摘してもらった。「自分は身体が突っ込んでいると思っていたのですが、映像では逆に後ろにちょっと残っていたんです。感覚と実際にはそういう違いがあるんだと、参考になりました」と上原。
選手の感覚をアナリストとして理解することも重要になる。そんな時に頼りにするのがグループ長の高橋光信さん。横浜高、国際武道大からドラフト6位で中日に入団。岡田彰布監督率いる阪神時代は「ミツ」の愛称で親しまれ代打の切り札として活躍し、阪神、オリックスで1軍打撃コーチを務めた。「高橋さんと空き時間にキャッチボールをした際に、『こういうようにバットを入れたらボールはこう飛ぶ』などプロの技術や感覚を教えてもらうのですが、選手と話すときに役立ちます」という。
高橋さんは「データだけで野球は勝てません。でもデータがあれば勝つ確率が上がるんです。学生時代に自分でデータ解析を工夫してきた経験が、新たな取り組みにつながり若い選手の成長につながっていると思います」と田原さんを評価する。
「投げた時の選手の感覚と、僕がデータを解析して思ったことが一致すれば選手にとってすごくいい状態なんです。そのデータを基にすれば『今回はここが違ったから結果的によくなかった』と選手に言えますし、5年、10年経った時には非常に大きなデータになってくると思ってやっています」と田原さん。選手が輝けるよう、毎日、データという「数字」に愛情を注ぐ。
取材・文=北野正樹