飛躍の2年目左腕!DeNA・石田健大
6月7日、セ・パ両リーグから発表された5月の月間MVP。セ・リーグ投手部門で選出されたのは、DeNAの2年目左腕・石田健大だった。
今季は開幕ローテーション入りを果たすと、4月こそ1勝に終わったものの、5月に入って4連勝。27イニングを投げて失点はわずかに1という見事な成績で、文句なしの受賞となった。
2勝に終わった昨季から大きく飛躍できたのはなぜか…。春季キャンプで話を聞いた時、石田は自身のルーキーイヤーをこう振り返っている。
「左腕が少ないということは聞いていましたし、1年目から即戦力としてローテーションに入って、何勝もして……そんなイメージを持っていました」
しかし、大学時代に痛めていた肩のこともあり、プロ生活は二軍からスタート。徐々にコンディションを上げていき、一軍の試合で登板するチャンスが訪れたのは7月に入ってからだった。
先発4試合目の中日戦で初勝利を掴むと、8月のうちに2勝をマーク。待望の先発左腕の台頭に周囲も期待を寄せたが、結局そこから勝ち星を伸ばすことができないまま1年目のシーズンを終える。
悔しかったルーキーイヤーに掴んだ収穫
「一番悔しかった試合は?」と尋ねると、石田はこう答えた。
「8月に2勝してからの試合、全部ですね。『ああ、もう一歩だったな』って、そういう試合ばかりが続いていたので……。最後の方は悔しいというより、『何でなんだろう』『何をどうしたら勝てるんだろう』と考えながらやっていました」
先発のマウンドを踏むこと11度。悔しい思いを味わった一方で、そこに立ち続けたからこそ得られた収穫もあったという。
「そんなに球威のない僕の真っ直ぐでも、一軍のバッターが差し込まれることが何度かあったんです。タイミングをずらせるというか。そこは大きな収穫でしたね。消さずにやっていこう、もっとレベルアップしていこうと思いました」
「剛」から「柔」への転機
プロの打者にも通用する手応えがあったという石田のストレートは、法政大時代のある経験から生まれたものだ。
「3年生の時、ジャパン(大学日本代表)に選ばれて、大瀬良(大地)さんや九里(亜蓮)さんと一緒になったんです。その時に『もうちょっとテイクバックを小さくした方がいいよ』とアドバイスをいただいて。試してみると、球速は出なくなったのにバッターが差し込まれている感覚があった。それを見て、この投げ方にして間違いじゃないんだなって」
それまでの石田は、球威で押すタイプのピッチャーだった。
大学2年時には150kmを出し、「今より全然いい」と自ら称賛するほどの真っ直ぐをミットめがけて投げ込んでいた。だが、「テイクバックを小さく」というシンプルな助言が、石田のピッチングスタイルを「剛」から「柔」へと変えることになる。
いまやストレートの球速自体は140キロ台前半。特筆するほどの速さではないが、制球が安定し、空振りを奪うシーンもたびたび見られる。ソフトバンクの和田毅などが有名だが、腕の出所が見にくいテイクバックの小さなフォームによって、打者のタイミングを狂わせているのだ。
「とにかく腕を振って低めに」
また、プロの空気にも慣れてきた23歳は、そうした技術的な気づき以外にも成長を実感している。
3勝目を挙げた5月11日の試合後、石田はこのように語った。
「去年と一番変わったのは……自分の気持ちですね。1年目は毎試合緊張して『明日は大丈夫かな』という気持ちで当日を迎えてましたけど、今年はいい意味で余裕ができて、自分のリズムで試合に入れてると思います。自分が投げたいところにボールが行っているのも、そういう気持ちの面が影響しているのかもしれません」
石田はかつて、気持ちがボールに与える影響についてこんな話をしていたことがある。
「この球で大丈夫かなっていう気持ちで投げるより、これ打たれたらファームでもいい、打たれてもいいから腕振って投げろっていうぐらいの気持ちで投げた方が、僕の経験上、結果はいいんですよ」
メンタルの充実は腕の振りを鋭くさせ、投げ込むボールに目に見えない威力を宿らせる。1年目の経験、そして「勝ちを重ねている」という現実が、石田の気持ちと直球をさらに強いものにしているのだろう。
「今年はとにかく腕を振って低めに、ということを常に意識しています。コントロールを気にして、甘くなっちゃダメだと思うと腕が振れなくなる。多少甘くいっても大丈夫と自信を持って投げることが大切だと思う」
一段上のステージへ駆け上がった若き左腕にとって、強打者が揃う交流戦での投球は、今後のさらなる成長を占う試金石となる。
交流戦自身初登板となった6月1日の西武戦では、5回まで好投を続けながらも、6回に満塁弾を浴びて敗戦投手となった。しかし、それも経験だ。
開幕前には、「今季の目標は10勝」と控えめに語っていたが、これまで通りの投球を続けることができれば、2ケタの勝ち星は十分手の届くところにある。