コラム

MLBの常識を覆す大谷旋風

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アナハイムのエンゼル・スタジアムで自己紹介する大谷翔平

白球つれづれ~第41回・大谷翔平


 驚きのあまりに椅子から転げ落ちた!?

 10日(日本時間、以下同じ)にエンゼルスの本拠地で大谷翔平の入団会見が行われた際に、B・エプラーGMがまさかの喜びの舞台裏を明かした。最初はアメリカンジョークかと思ったがそうではなかった。

 わずか、1日前に代理人であるN・バレロからエンゼルス決断の一報がもたらされた時に球団事務所で椅子から転倒、慌てて職員たちが駆けつけたというから、まさに衝撃の大逆転ドラマだったのだ。


スピード決着


 何から何までがこれまでのMLBの常識を覆す大谷のメジャー挑戦だった。

 まず、異例だったのが交渉期間の短さだ。大谷が正式にメジャー移籍を表明したのが11月7日。同月末に渡米すると12月早々から「27」に及ぶ獲得意思を表した球団を書類選考。同4日には7球団に絞り込み、一時は本命視されたヤンキースらも脱落する。その後、2日間でドジャースやマリナーズ、レンジャーズらと面談して最終結論を迎えた。

 メジャー挑戦を表明してから、わずか1カ月。残った7球団との面談を終えて入団決定までは3日というスピード決着だ。その背景にはメジャーのほぼ全球団が獲得を熱望した大谷の進路が決まらなければ、次の補強策に動けない事情があった。

 折しもメジャーのウィンターミーティングが始まった。球界関係者が一堂に会し、トレードなどの戦力補強が活発化する。この動きさえも大谷の去就次第で変わってしまったのだから恐れ入る。


野球少年の夢


 次なる驚きはメジャー挑戦に対してマネーゲームへのこだわりがなかった大谷サイドの姿勢だ。

 「カネはいらないがメジャーでプレーしたいと言った選手は初めて。こんな選手が出てくるとは思わなかった」と語ったのはヤンキースのGMであるキャッシュマン。新たなポスティングシステムでは25歳未満の選手との契約に使える金額は大幅に制限された。23歳の大谷の契約金は231万5000ドル(約2億6600万円)で、マイナー契約となる新年俸は55万ドル(約6630万円)と見られる。

 過去に西武からレッドソックスに移籍した松阪大輔の場合、入札額は日本円で約60億円に年俸も6年総額で約61億円とされた。2013年にヤンキース入りした田中将大でも年俸総額は7年で約163億円に達している。

 もう数年、日本でプレーしてから海を渡れば大谷の場合も巨額のマネーを手に入れることは不可能でなかったにもかかわらず「野球少年」は夢を最優先したのだ。これも米球界の常識とは違う。


アメリカでも規格外


 「TWO WAY STAR」現地紙では早くも“二刀流”の話題で持ちきりだ。ここでも大谷はメジャーの常識を覆そうとしている。投手と打者。名将として鳴らすM・ソーシアは、早くも先発投手と指名打者としての起用を明言。これによりメジャーではほとんど見られなかった先発6人制が現実味を帯びてきた。

 メジャーのローテーションは長く中4日を基本としてきた。5人の先発が中4日で投げるから投球数も100球をめどとして故障の防止策とされた。しかし、先発から前後を開けてDHにも挑戦する大谷の場合、最低でも中5日は欲しい。そうなるとメジャーの常識とされてきた投手起用法にも大変革が起きる。

 加えて、大谷がDHに入るときには、今季までDHに専念していた主砲のA・プホルスが一塁の守備に就くとか。通算614本塁打のプホルスと言えばエンゼルスどころか球界の至宝、そんな大打者の定位置すら脅かすのだから大谷への期待の大きさがわかるだろう。

 余談になるが、入団発表の当日には早くも大谷の名前入りTシャツやユニホームが発売されて5万ドル(約565万円)近くを売り上げた。球団では年間シートの申し込みなどの対応に急遽、日本人通訳の採用を決めたとか。この数年低迷の続くエンゼルスには何ともうれしい「大谷特需」まで見込めそうだ。

 来春2月中旬からはアリゾナ州テンピでスプリングキャンプをスタートさせる。二桁勝利と二桁本塁打を記録すれば、あのベーブルース以来、100年ぶりの快挙。メジャーの常識すら打ち破る大谷なら、あながち不可能とは思えない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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