華々しいデビューも…
2015年、國學院大学からドラフト3位の高評価を受け、横浜DeNAベイスターズに入団した柴田竜拓。大学時代は守備面の評価が非常に高く、日本代表の一員としても数々の大会に出場。大学No.1ショートとしてプロの門を叩いた。
そしてルーキーイヤーの2016年3月25日に行われた開幕戦、柴田は7番セカンドでスターティングラインナップに名を連ねる。するとプロ初打席でセンター前に決勝の2点タイムリーヒットを放ち、これ以上ない最高のデビューを飾った。
しかしその後、プロの壁にぶつかり、ルーキーイヤーは19試合の出場で打率は.205。打点は開幕戦での2打点のみに終わった。ファームでは87試合に出場したが、こちらも打率.215と、バッティング面での課題が浮き彫りとなる。
出現し続けるライバル
プロ2年目の昨季も開幕一軍スタートを飾ったが、ヤクルトから田中浩康という新たなライバルが加入し、生え抜きの石川、助っ人エリアンとのポジション争いが待っていた。一度ファームに落ちるも、7月に上がってくると終盤戦にかけて次第にスタメン出場が増え、CS争いの大事な最後の10試合は「最後まで柴田を使う」とラミレス監督が明言。レギュラーシーズンは88試合に出場し打率.233だったが、CSでは全試合にスタメン出場し、高打率を残して存在感を示した。
セカンドのレギュラーを掴んだかに見えた柴田だったが、阪神からFAで大和を獲得したことで、情勢は一変する。ラミレス監督も大和を、スモールベースボールの確立を目指す上での「最後のピース」と評し、期待の高さを公言。「大和に簡単にポジションを与える事はない」とのコメントもあったが、オープン戦で柴田がスタメン起用されることはなく、
シーズンに入ると柴田の出番は、終盤戦の守備固めに限られた。
さらに、宮本秀明という新たなライバルも現れる。ドラフト7位で入団したルーキーながら、快足を武器に代走として盗塁を重ねると、4月25日のカープ戦での初ヒットが初ホームラン。するとラミレス監督は翌日、スタメンに宮本を起用し、開幕20戦目にして大和をベンチに下げた。この起用を意気に感じたのか、宮本は第1打席で再びホームランをかっ飛ばし、柴田の立場はさらに厳しいものになっていく。
腐らない“強さ”の根源
自分でも課題はバッティングだと熟知している。昨シーズンは、引っ張ったヒットが多かったが、CSでは逆方向を心掛け、高打率を残すことができた。その経験を肥やしとして、今年はいつでも逆方向に打てる技術の習得を目標としている。
置かれている立場は厳しくても、柴田は決して腐らない。何故なら彼のベクトルは、常に自分に向いているからだ。
「野球が好きなんです。だからもっと上手くなりたい」とキラキラした笑顔で語る。
試合前の練習でも、青山コーチのノックを時間いっぱいまで繰り返す。時には外野に転がったボールをも回収し、ベンチに戻ってくるのは、決まって最後のグループだ。「プロとして、一生懸命やることは当たり前」、「守備は出来て当たり前。上手いとは思っていません。完璧ではないですから」。謙虚ながらも、あくなき向上心が彼を支えている。
レギュラーへの挑戦
そんな柴田に幸運が訪れる。雨の中の5月13日のデーゲーム、リードしていたベイスターズは、コールドゲームを視野に入れ、4回から守備固めとして柴田を起用。5回に回って来た打席で、なんと雨を切り裂くライトへツーランホームランを叩き込んだ。
これが14打席目にして今季の初ヒット。試合後、「シュートを逆方向にと考えていたが、インコースのスライダーに上手く反応できた」と満面の笑みを見せ、ラミレス監督も「ボーナスだね」と目を細めた。
今年のラミレス采配は「聖域」を設けていない。
もちろん二遊間も固定はされていない。ショートの大和は、難しい打球の処理で素晴らしいプレーを見せる一方、イージーなエラーも目につく。昨季までショートのレギュラーだった倉本もセカンドという不慣れなポジションで奮闘中だ。その点、柴田の守備力は抜群の安定感を誇る。目指しているシュアな打撃が身につけば、レギュラー再奪取も十分狙えるだろう。
「良い結果を残して、ファンの皆さんに喜んでいただきたい」と語る柴田の原点は、「野球が好き!」ということ。そう本心から答えるプロ3年目のベビーフェイスに、野球の神様が振り向かないはずがない。
取材・文=萩原孝弘(はぎわら・たかひろ)