キャリア初の首位打者を狙える勢い
プロ16年目のベテランが躍動している。ヤクルトの坂口智隆だ。
今季は5月27日の試合終了時点でリーグ3位の打率.340。出塁率は.441でリーグトップの成績を収めている。巨人の坂本勇人や、中日のアルモンテらと激しい首位打者争いを演じている33歳は、26日のDeNA戦、7回二死満塁からセンターへ走者一掃の適時三塁打を放ち、三塁ベース上で豪快にガッツポーズ。チームの連敗を6で止め、お立台で「(33歳は)元気いっぱいです」と笑顔がはじけた。
神戸国際大付高から2002年のドラフト1巡目で近鉄に入団した坂口。数少なくなった「元・近鉄戦士」の一人である。05年にオリックスと球団合併した後は、攻守に渡ってチームの顔に。08年~11年まで4年連続でゴールデングラブ賞を受賞。11年には175安打を放ち、最多安打のタイトルも獲得した。
しかし、12年以降はケガに苦しみ、出場試合数が減少。わずか36試合の出場に終わった15年オフ、球団から野球協約の制限を上回る大幅減俸を提示されると、坂口は自ら自由契約を申し入れ、ヤクルトへの移籍が決まった。
“ひた向きさ”でファンの心もガッチリ
野球人生の岐路に立たされたとき、男は常に前を向いて、逆境を跳ね返してきた。
移籍初年度は141試合に出場。打率.295と3割に迫る勢いで復活を印象づけると、昨季は136試合に出場して打率.290、155安打はともにチームトップという成績を収めた。
ところが今季、坂口は開幕前からレギュラーを確約された立場ではなかった。キャンプイン直前、ヤクルトからアメリカへと羽ばたいていった青木宣親が7年ぶりにチームに復帰することが決定。バレンティンや雄平らを交えた外野のレギュラー争いが勃発すると、坂口は外野だけでなく、プロ入り後はじめて一塁にも挑戦した。
これまでは外野を主戦場とし、その広い守備範囲でゴールデングラブ賞を受賞したほどの男も、浦添キャンプでは泥だらけになって内野ノックを受けた。そんな“ひた向きな姿勢”こそが、坂口の魅力である。
燕ファンの間では、“グッチ”の愛称で親しまれる。ヤクルト球団史上初の試みである「スワローズイケメン大総選挙」では、生え抜きスターの山田哲人に次ぐ第2位にランクイン。6月9日・10日に行われる「Swallows LADIES DAY」に合わせて行われた企画だが、ヤクルト移籍3年目にして、既に高い人気を誇っていることがお分かりいただけるだろう。
対左投手、フルカウント時に高い打率
ヤクルトで人気と実力を不動のものにしつつある坂口。今季の好調を維持できている要因の一つに、対左投手への対応力が挙げられる。ここで、坂口の過去5年間の対左投手の打率を見てみよう。
【直近5年間・坂口智隆vs.左投手成績】
▼ オリックス
2013年:率.281
2014年:率.242
2015年:率.160
▼ ヤクルト
2016年:率.335
2017年:率.310
オリックスでの最後の3年間を見ると、13年から徐々に対左投手の打率が低下。しかし、ヤクルトへ移籍した1年目の16年には.335と急上昇している。ちなみに、この数字は両リーグの左打者のなかでトップの好成績だった。翌17年も.310と好結果を残しており、今季もここまで.410と高いアベレージをキープしている。
さらに、カウント別の成績では、3ボール・2ストライクのフルカウント時に19打数8安打、打率.421と高い数字を誇る。追い込まれた状況下でも変わらぬ勝負強さを発揮しており、5月6日の広島戦では延長11回二死一塁の場面、まさにフルカウントから右翼線へサヨナラ二塁打を放って劇的勝利の立役者になった。
「不屈の魂で再び挑み」――。ファンが口にする坂口の応援歌には、こんなフレーズがある。ケガと闘い、自由契約となり、ヤクルトで再起を誓った男。ポジションが固定されない中、厳しい局面に立たされても負けずにプレーし続ける背番号42に、今後も注目だ。
文=別府勉(べっぷ・つとむ)