第4回:オフの最重要課題である守護神探し。各チームの状況は?
ソフトバンクの森唯斗投手が19日に行われた契約交渉で現状維持の4億6000万円プラス出来高(金額は推定、以下同じ)で更改した。
今季は2勝4敗6セーブと、およそ金額に見合う働きではなかったが4年に渡る複数年契約の恩恵に預かった形。来季が契約最終年となるがクローザーから先発転向が決まっている。
優勝マジックを1としながら、オリックスに逆転を許した今季。森にとっても歯がゆい年となった。シーズン序盤から不安定な投球が続き、途中からは守護神の座をリバン・モイネロに明け渡している。
18年から3年連続30Sを記録するも、昨年は左肘の手術などで15S、そして今季が6Sだから「クローザー失格」の烙印を押されても仕方ない。
加えて先発への配置転換には複雑なチーム事情がのぞく。まず、第一は大エース・千賀滉大投手のメッツ移籍で先発陣が手薄になった事。次に、今季途中からロッテの守護神として活躍したロベルト・オスナを獲得、これによりモイネロを再びセットアッパーに戻してオスナにつなぐ必勝パターンが出来上がったからだ。来季プロ10年目を迎える森にとっては、先発で結果が出なければ中継ぎに降格もあり得る。文字通り背水の陣を迎えることになった。
森に限らず、近年はクローザーの座が揺らぐチームが多い。
オスナの残留交渉に失敗したロッテでは前守護神・益田直也投手の打ち込まれる場面が目についた。今季25Sをマークしたものの、痛打されることも多く、防御率も3.35と不成績に終わっている。他にはオリックスの平野佳寿、阪神の岩崎優投手らもシーズンを通して安定した投球は出来なかった。
外国人のクローザーに頼るチームも苦労している。セリーグ連覇のヤクルトではスコット・マクガフが突如退団して再編成に追われている。
広島・栗林良吏、巨人・大勢ら若手のクローザーが誕生する一方で、連投による「勤続疲労」が蓄積されるベテラン勢にとっては、4年、5年と継続して好成績を残すのは至難の技。分業化の進む現代野球では中継ぎ、抑えの重要性は年々増している。特にクローザーにはチームの浮沈がかかっていると言っても過言ではない。それだけに各チームとも絶対的な逃げ込みを図れる守護神探しはオフの最重要課題なのだ。
パ・リーグを代表する救援エースの西武・平良が先発に転向
森のように、やむなく配転となる選手もいれば、自ら球団に直訴して先発転向を勝ち取った男もいる。西武の平良海馬投手だ。
一昨年の新人王に輝いた平良は、セットアッパーを任されながら、クローザーも務める救援陣の絶対的な存在。だが、今月初旬に行われた契約交渉の席で先発転向を直訴。いったんは決裂したが、2日後に球団側が折れる形で要求が通った。
水面下ではこの数年、先発転向を訴えていたと言うが、球界屈指のセットアッパーをチームとしては簡単に手放すわけにはいかない。当初の予定では24年から転向を認める方針だったが、平良は「(先発と比べて)不平等みたいなものを感じていた」と不満をぶちまけて要求を完徹した格好だ。
今では中6日の休養を与えられ、6、7イニングも投げれば合格を与えられる先発に比べて、毎日のようにブルペンで待機する救援陣の過酷さに、年俸でも先発の方が有利と平良は訴えたのだろう。
西武のブルペン陣を見るとクローザーの増田達至以外に、今季は水上由伸や本田圭佑らがブレークしてパリーグ屈指のスタッフが揃った。だが、その中心格である平良が抜ければ非常事態にもなる。
正捕手の森友哉選手がオリックスにFA移籍して、今度は「平良の乱」では松井稼頭央新監督も頭が痛い。せめて、平良が先発で10勝近くを稼いでくれることを願うばかりだ。
契約交渉とは年に一回、選手と球団が話し合いを持つ場である。非情な通告もあれば、あっと驚く要求もある。奇しくも今年の冬はパ・リーグを代表する森と平良と言う救援エースの先発転向が明らかになった。
さて、この結末はいかに? 次なる“銭闘”は、もう始まっている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)