白球つれづれ2023~第4回・日本ハム・清宮の長距離ドライブと球団の危機管理問題
プロ野球のキャンプインまで1週間あまりとなった。
新人や多くの選手は自軍の施設を使ってトレーニングに励んでいるが、主力選手らは全国各地に散らばって、独自の鍛錬を積んでいる。
そんな中で、ちょっと首を傾げたくなる記事が今月下旬のスポーツ各紙に載った。日本ハム・清宮幸太郎選手の自主トレ風景である。
1月20日付のスポーツニッポン紙には「免許取得2日後アクセル全開 600キロ西日本自主トレ旅」の見出しが躍る。
その内容は、自動車免許取りたての清宮が、昨年から師事するソフトバンク・柳田悠岐選手のトレーニングに参加するため福岡に降り立った後、知人から借りた高級車のベンツを自ら運転。大分、広島と延々600キロを悪戦苦闘して駆けつけたと言うもの。そこに同乗したロッテ・安田尚憲選手の「めっちゃ、怖かったです」のコメントまで添えられては、笑い話だけで済まないだろう。
清宮と言えば、昨年までは人気だけが先行した有望株。高校通算111本の本塁打記録を打ち立ててドラフト1位入団。伸び悩みが続いたが、昨年は自己最多18本塁打をマークして、今季の更なる飛躍が期待されている。
17年ドラフト同期の安田も一昨年には開幕4番を任されたほどの逸材だ。彼らが球界屈指の強打者である柳田に、教えを乞うのはいたって自然である。この「柳田組」には阪神の佐藤輝明選手も合流、さながら将来の球界を背負って立つ“主砲養成所”の豪華な顔ぶれが揃った。
オフ期間の選手の行動を球団はどれだけ把握すべきか
ここで、心に引っかかるのは「柳田組」のトレーニングではなく、清宮のとった行動と球団の危機管理の問題だ。
野球界には球団と選手の間で取り交わされる統一契約書が存在する。原則、選手は個人事業主とされ、球団とは2月から11月まで10カ月が拘束期間で、12月と1月は、新人など一部の選手を除いてフリーな立場にある。
近年は人気選手の自主トレには、取材日が設定され、当日は球団広報などが対応にあたる。したがってそれ以外の日は球団による管理下にはないのだが、今回の清宮のケースなどはその盲点にあたる。
もう少し、記事から引用すれば安田の証言として「駐車枠の半分くらいはみ出して止めていた」とか、「駐車券を取る際に、ブレーキを離してしまい券が取れなかった」などとある。つまり、免許取りたての運転は、危なっかしくとても600キロの長距離ドライブなど無謀だったと推察される。
もし、仮に事故でも起こしていれば清宮本人はもとより、助手席に乗る安田にも危機は迫ったはず。これほどの危険性を両球団関係者は事前に把握したり、対処法をチェックできていたのだろうか? 共に今年がプロ6年目の24歳。立派な成人にそこまで監視の目を光らせる必要はないという意見もあるだろう。だが、一方でこれからの球界を背負って立つ有望株に何かがあってからでは手遅れになることもまた事実だ。
誰と、どこで、どの期間を行動するのかは各球団ともチェックしているだろうが、今回の清宮のような特殊な例にどう対応するのか、オフのひとつの教材にすべきである。
最近の野球選手は、昔の選手と比べて真面目だと言う声を聞く。メジャー流で1年を通してトレーニングを欠かさず、最新機器を使って弱点の強化にも取り組む環境が整っているからだ。
さらにキャンプに入ると初日から実戦形式を取り入れるチームも増えている。そうなれば、自主トレの成果がレギュラー取りに直結する。球団の目の届きにくい2カ月が選手の生命線となるなら、旧態依然の関係もまた、見直す時期に来ている。
新米ドライバー・清宮の危ない長距離ドライブに改善点があるなら、運転代行でも見つけるのが最善の手。もっと言うなら、かつてのONは専属の運転手を雇っていた。体が資本のスポーツ選手ならそれくらいの自覚は欲しい。
まずは清宮、安田に運転手を雇えるくらいのスーパスターへ育つことを願うのみである。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)