風貌もプレーも“新人らしからぬ”オールドルーキー
「新人らしからぬ」とは、スポーツメディアがルーキーを取り上げる際の決まり文句だが、今季のルーキーのなかで最もこのフレーズがしっくりくるのがDeNAのドラフト4位・戸柱恭孝ではないだろうか。
178センチ、88キロのがっちりした体躯に、「ハマの金剛力士像」とも呼ばれるいかつい顔つき。新人ながら、ファンからは「すでにベテランの風格が漂う」という声も上がっているほどだ。
戸柱は鹿児島県出身。鹿屋中央高では主将・捕手としてチームを牽引。3年夏の鹿児島県大会では、優勝校・鹿児島実業高と準々決勝で対戦し、0-2で惜しくも敗れた。高校卒業後は駒沢大学を経てNTT西日本入り。1年目から公式戦に出場するなど活躍し、社会人3年目でプロへの切符をつかんだ。
社会人経験のある26歳のオールドルーキーの風貌は、確かに新人らしくない。ただ、それは見た目だけに限られたものではない。戸柱は、プレーでも“新人らしからぬ”安定感を見せている。
数字と信頼に表れる戸柱の確かなキャッチング技術
今季の開幕に当たり、DeNAの大きな課題として挙げられていたのが捕手の固定である。昨季は、嶺井博希、黒羽根利規、高城俊人がそれぞれ61試合、42試合、40試合でスタメンマスクを被り、正捕手不在という状況であった。
ところが、今季は、3月8日に行われたチームの壮行会でラミレス監督が戸柱の開幕スタメンを早々に宣言。嶺井と高城は年下ではあるものの、プロの“先輩”たちを押しのけ、新人が正捕手の座を射止めたのだ。
もちろん、それは戸柱の技術あってのもの。戸柱のリードを高く評価しているラミレス監督は、ベンチから捕手にサインを送るという開幕前の“宣言”を翻している。さらに、大学、社会人時代に鍛え上げた正確なキャッチングは、首脳陣のほか、投手陣からの信頼も厚い。
“戸柱効果”は実際に数字に表れている。昨季、日替わり状態の捕手たちで積み重ねた暴投は68。不名誉なプロ野球記録となってしまった。ところが、今季の暴投は、広島の20、巨人の24に次ぐ32。シーズン143試合に換算すれば、41と激減する計算だ。これは、115試合中88試合でスタメンマスクを被っている戸柱の力によるものだろう。
もちろん、戸柱にも課題はある。例えば、盗塁阻止率もそのひとつ。プロ入り前には強肩が持ち味のひとつに挙げられていたが、ここまでの盗塁阻止率は.192。さすがにこれは物足りない数字だ。そういった、レギュラー捕手としての課題もある。
ベテランの風格が漂うとはいえ、戸柱はルーキーである。日々、プロの試合を通して、多くのものを吸収し、着々と成長しているに違いない。名捕手といわれる選手たちは、そろって選手生命が長く、チームの顔となっていく。戸柱がDeNAの顔と言われる日が訪れるか。その戦いははじまったばかりだ。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)