内野手から投手に再転向した異色の経歴
8月7日、1勝1敗で迎えたパ・リーグ首位決戦の第3ラウンド、その重要なマウンドを任されたのは、ドラフト2位ルーキー・加藤貴之(日本ハム)。初回から2四球を出すなど制球に苦しみ1点を失ったが、その後は粘りのピッチングを披露。6回途中、2失点(自責点1)という内容でプロ3勝目を挙げ、チームは首位・ソフトバンクとの直接対決に勝ち越した。
加藤は、異色な経歴の持ち主だ。強豪・拓大紅陵高から新日鐵住金かずさマジックに入団。「身長が止まって骨格ができるまでは投手のトレーニングをしても本物にはならない」という監督の意向により、入団当初は内野手として登録された。
そして2年目の夏、突然、監督に告げられた。「今日からピッチャーをやれ」。そうして投手に再転向した加藤に、野手経験が大きな成果をもたらした。フィールディング技術が向上し、野手目線でも試合を見られるようになっていたのだ。
そうして2014年からはエースとして活躍。第85回都市対抗野球大会では、2回戦・永和商事ウイング戦に先発し7回無失点の好投。しかし、続く東京ガス戦では、2点リードの8回からマウンドに上がると2点を失い同点とされ、9回には痛恨のサヨナラ犠飛を浴びて敗戦投手となった。
しかし、その年の9月には2014年アジア競技大会の日本代表に選ばれるなど注目度が増し、即戦力左腕としてドラフト有力候補にも挙げられていた。ところが、都市対抗野球での悔しい結果もあってか、本人は「まだ会社に貢献していない」と残留を決意する。
チーム最年長新人が内に秘めた責任感
その責任感の強さは、3勝目をマークしたソフトバンク戦後にも表れている。チームを勝利に導きながらも、6回途中での降板に納得できなかったそうだ。少しの遠回りを経てプロ入りしたチーム最年長新人ならではの心理なのだろう。
そして、チームにはいまこそ加藤の力が必要だ。寝違えによる首痛でメンドーサが離脱。右手中指のまめをつぶし、7月10日のロッテ戦を最後に1カ月以上も先発を回避している大谷翔平の先発復帰予定は8月21日のソフトバンク戦とまだ先だ。8月4日には守護神・増井浩俊が6年ぶりに先発するなど、先発のコマ不足は明らかである。
そんな状況のなか、即戦力という前評判に違わず、開幕から中継ぎに先発にとフル回転し、かつ防御率2.94と安定している新人左腕にかかる期待は日ごとに増している。ソフトバンクに食い下がり、そして追い越すために――飄々としたキャラクターながら、その内に静かな闘志と強い貢献意欲を秘めたルーキーが救世主となる。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)