オリックスの山下舜平大投手が米国でトミー・ジョン(TJ)手術を受けてから約4か月が過ぎた。同時期に手術をしたエース宮城大弥投手らとともに、術後約1年後の復帰を目指し大阪・舞洲の球団施設でリハビリの日々を過ごす“大器”の現在地は――
「やっと(手術した)右手をつけるようになりました」。山下が短い言葉で、現状を説明してくれた。髪を洗うのにさえ左手だけの生活だったが、ようやく右腕を使って体を支えることができるようになった。「でも、まだトレーニングができるとかいうレベルではないので、階段を上がったという感じではありません」と続けたが、日常生活に戻りつつあり次のステップに進めることで、表情は明るい。
福岡大大濠高から2020年ドラフト1位でオリックスに入団。155キロ超の速球と落差の大きいカーブ、フォークボールで3年目に開幕投手を務め、9勝(3敗)を挙げ新人王に輝いた。しかし、身体の成長に伴う腰痛で昨季は4試合登板にとどまり、今季はオープン戦期間中に右ひじのコンディション不良で戦列を離れ、5月中旬にTJ手術を受けた。
リハビリは4週間が一つのセットで、2週間スパンでメニューが進む。「次の1か月の目標に向かって、使える筋肉をつけておきましょう、という感じですね。上半身は使えないので下半身は(ジョギングなど)やれることはやっています」。4か月を過ぎて、右手で3キロ程度の重りを持てるようになった。「肩のインナー系(を鍛えること)が多いですね」。
「日本で手術した人は4か月でウエイトトレーニングをやっているようですが、米国のプログラムは治す過程を長くとっていて、治ったらもう全開のような感じになるので、焦りはないですね。そこは、慌てずゆっくりにという感じです」。例え、プログラム通りに進めなくても無理はしない。「自分は結構、ゆっくりと段階をクリアしてから次に進もうとしているんです。ゆっくりいっても、次の期間に間に合えばいいんじゃないかなと思っています」と意に介さない。
ストイックに野球に向き合い、ブレずに自分を貫いてきた。リハビリ中もその考えは変わらない。同時期に手術を受けた宮城には、痛みなどの感覚を尋ねることはあるがリハビリの進捗状況に関心はない。「共有はしますけど、痛みの個人差はあるし腕の長さも違っていて手術の内容もすべて同じではないでしょうし。一喜一憂はしません」と言い切る。
リハビリ中の楽しみはない。趣味も作らないという。「趣味を増やすって、野球から気分を変えて気を紛らわせるってことですよね。気分転換にどこかに行こうかと思っても、我に返ると、みんな試合をしているのに何をやっているのか、本当は行っちゃダメなんじゃないかとなります。それに、やらなくてはいけないことは明確なんで、現状から気を紛らわせることはありません」。喜怒哀楽とも無縁だ。「何かをしたいということはあまりないです。朝起きて寝るまでの流れを、変化なくやることがいいですね」と明かす。朝5時に起床し、ゆっくりと有酸素運動を行った後、バイクをこいで朝食後に舞洲を訪れ、午前9時ごろから電気治療やストレッチ、ジョギングなどをこなすリハビリの毎日。すべては復活後、160キロ以上を出すための準備だ。
9月下旬には、復帰に向けた本格的なトレーニングがスタートする。ネットスローから始まり、キャッチボール、遠投、ブルペン入り。「ゆっくりですが確実に進んでいます。投げるのは、最後でいいと思います。それまでにどれだけ筋力を戻していくか。(腰痛で)リハビリは慣れているんで。こういう時にはそれが生きていると思います」。雌伏の時を心穏やかに過ごし、マウンドで躍動する日を静かに待つ。
取材・文=北野正樹