プロ初打席初本塁打の快挙
燕の55番が、衝撃の一軍デビューを飾った。ヤクルトのドラフト1位ルーキー・村上宗隆が、9月16日の広島戦(神宮)でプロ初打席初本塁打となる2ランを右翼スタンドへ運んだ。高卒新人の初打席初本塁打は史上7人目の快挙だ。
この日に一軍へと初昇格し、即「6番・三塁」でスタメン起用された。前日15日まで二軍の戸田で汗を流し、「早く一軍に上がりたい」という思いを口にしていた18歳が、神宮の舞台ですぐに結果を出した。
熊本の九州学院高出身で、高校通算52本塁打を放った逸材。まさに一軍昇格の前日に、将来のヤクルトを背負って立つ期待の星を取材した。
ファームで4番…堂々たる成績
イースタンリーグでは96試合に出場して打率.289をマーク。さらに17本塁打、70打点は共にリーグ2位の好成績だ。
しかし、本人は「プロのレベルの投手と対戦して、やっぱりレベルの違いも感じましたし、それに必死に食らいついていった結果がこういうふうに出て良かったなと思っています」と冷静に振り返る。
高卒1年目からファームで4番を打ち続けた村上。8月9日以降はコンディショニング不良で一時実戦を離れたが、9月5日のロッテ戦(戸田)で復帰を果たした。
同13日の西武戦(西武第二)では、右中間への17号3ランを含む3安打5打点と大暴れ。「体調はもう万全」と話してくれたように、完全復活を遂げた。
チームに貢献することが一番
188センチ・97キロと堂々たる体格の村上に期待されるのは、やはり長打力。自身が目指す打撃スタイルについては、次のように語る。
「ホームランへのこだわりもありますが、打率も残したい。また、チームに貢献するには、やはり打点を挙げることだと思うので、それ(チームへの貢献)につながる結果を出したい」
四球数もリーグ1位の56個。本人は「たまたまが多いと思います。必死にストライクを打っていこうという気持ちで立っている」と謙遜するが、ボール球を振らない選球眼の良さも際立っている。
さらに、広角に打球を飛ばせるのも村上の大きな魅力だ。「僕の特徴は、レフトやライトにも打てることだと思っているので、しっかりそこを伸ばしていきたい」と語り、5月25日の西武戦(戸田)では、球界を代表する左腕・西武の菊池雄星から左越えのアーチを放った。
当然、小川淳司監督も村上の素質を高く評価している。だからこそ今季中の一軍昇格を決めた。村上自身も「一軍で活躍してこそプロ野球選手だと思う。(一軍での)経験が早くできたら嬉しいですし、しっかりその期待に応えたい」と、一軍でのプレーに並々ならぬ意欲を見せる。
そして巡って来たチャンス――。将来のクリーンアップ候補と目されるなど大きな期待をかけられているが、村上自身は「自分の与えられた役割で自分のプレーができる選手になりたい。チームに貢献することが一番だと思っています。チームが勝つことに協力したい」と、自身の立ち位置を見失っていない。
同期の安田、清宮には「負けたくない」
ドラフト同期のロッテ・安田尚憲、日本ハムの清宮幸太郎は先に一軍の舞台を経験している。
2人については、「意識はします。負けたくないので。自分は自分でしっかり(ファームで)結果を残してやっていこうとしてきたので、これからが勝負」と力強く語ってくれた。
ただ、一軍でレギュラーを掴むためには、守備や走塁でも結果を求められる。高校時代は捕手だったが、プロ入り後は内野にコンバートされ、現在は三塁を守っている。
まだまだ発展途上だが、キャンプから三木コーチや森岡コーチに指導を受けており、「だんだん上達はしてきているので、それをもっと継続して、2年後・3年後しっかり守れるようになりたい」と先を見据える。
さらに、盗塁について「自信はない」と話すが、「積極性だけは忘れずに、タイミングが取れたら走る」と、ファームでは16盗塁を記録。次の塁を狙う意識も高い。
「早く一軍に上がって、ヤクルトのリーグ優勝・日本一に貢献できるように頑張りたいと思っています」
その言葉を体現する機会が訪れると、初打席で本塁打の衝撃デビュー。18歳とは思えない存在感を放つ“新時代の大砲”がベールを脱いだ。
取材中、何度となく口にした「チームのために」という強い思い。その言葉の端々からは彼の意志の強さが感じとれた。近い将来、燕の55番は、間違いなくヤクルトの中心選手になるだろう。
取材・文=別府勉(べっぷ・つとむ)