連夜のサヨナラホームラン 人気沸騰中の「持ってる男」
5月20日から始まったプロ野球セ・パ交流戦。
開幕カードのヤクルト対ロッテ戦でサヨナラホームランを放った加藤翔平(ロッテ)は、翌21日の試合では初回に3ラン。2死一、二塁の場面で、石川雅規のスライダーを豪快に振り抜いた。お立ち台では「ヤクルト、大好きです」と笑ってみせたが、日をまたいでの2打席連続アーチ、しかも、サヨナラホームランに先制弾となれば、「自分が一番びっくりしています」というのが本音だっただろう。
プロ2年目、23歳の外野手。スイッチヒッターで、昨年は1軍出場23試合で26打数4安打、打率.154。目を見張る成績ではないが、ホームラン1本が「プロ初打席初球ホームラン」という史上2人目の記録に。いつの間にやら「持ってる男」と呼ばれ、大いに注目を集めるようになった。私服姿を公開したファンブックは4000冊の増刷が決定。6月4日から毎週水曜日、女性限定で500冊ずつ配布されることになった。さらに、「持ってる男」グッズの発売予定もあるという。
選手名鑑の経歴に潜む 「隠れエリート」に注目せよ
中学時代は、加須シニア(埼玉)に所属。県北から全国大会を狙う強豪チームで、加藤の3年時は春の関東大会ベスト8という成績を残している。
高校は、埼玉県立春日部東高校へ。甲子園出場経験もない「県立の雑草軍団」と思ったら大間違い。近くにある春日部市立東中学校の野球部は、加藤の1学年上の代で県大会優勝、関東大会優勝、全国中学校軟式野球大会出場。当時の春日部市は、埼玉県内随一の野球王国だったともいえるのだ。ちなみに、「公務員ランナー」川内優輝選手の母校である。
もともと右打ちだったのが、俊足を生かすべく左打ちに挑戦したのが1年夏。懸命に練習に励み、短期間でモノにしたという。県立の越谷西高校を1995年夏の甲子園に導いた中野春樹監督の下、甲子園に一番近づけたのは、2年夏のベスト8。同学年で注目を集めていたのは、白崎浩之(埼玉栄高→駒澤大→DeNA)、大塚椋司(聖望学園高→JX-ENEOS)、高木伴(市立川口高→東京農業大→NTT東日本)など。有望選手を取り上げた雑誌に「加藤翔平」の名前はなかった。
卒業後は、群馬県伊勢崎市にある上武大学へ。東京六大学や東都大学ほどの派手さはないが、大学選手権や明治神宮大会という大学の全国大会における常連校の一つで、昨年、大学選手権初優勝を果たしている。チームを率いる谷口英規監督は浦和学院高→東洋大→東芝で、日本代表ユニホームを着たこともあるという輝かしい経歴の持ち主。1年生からレギュラーに抜擢された加藤は4年間、一流の野球を叩き込まれたのである。
1年秋の神宮大会では初戦でホームランという「持ってる男」ぶり。この試合、相手の関西国際大の2番手ピッチャーが、現在はチームメートの益田直也、3番手が松永昂大だった。準決勝では野村祐輔(明治大→広島)とも対戦して勝利。大学トップレベルの選手と対戦を重ね、準優勝に輝いた。
3、4年時は大学選手権出場。4年時には主将を務めた。当時の雑誌でのドラフト有望候補大学生180名にリストアップされるも、写真入りで取り上げられた外野手は、緒方凌介(東洋大→阪神)、井上彰吾(日本大→HONDA)、中嶋啓喜(明治大3年→JFE東日本)の3名。加藤はコメントのみで「右中間最深部へ伸びる打球に真っすぐ走って捕球しワンバウンドで三塁返球の守備力光る」。打撃よりも守備で評価されていた。
2012年秋のドラフトでは、松永昂大(投手/高松商高→関西国際大→大阪ガス)、川満寛弥(投手/宮古総合実業高→九州共立大)、田村龍弘(捕手/光星学院高)に続く4位でロッテが指名。そんな選手がいい場面でホームランを放ち、「持ってる男」と呼ばれるのだから、人生、何が起こるかわからない。しかし、それまでの野球人生をひもといてみると、加藤のような「隠れエリート」という選手は数多い。選手名鑑の情報を入口に、その体にしみついた野球を探るのも面白いものである。
文・平田美穂(ひらた・みほ)