■ 粘り強いアスレティックス打線 選球眼とファウルで田中を苦しめる
相手打者がなかなか空振りをしない。「ファウルの多い試合」だと感じていた。
過去の登板を調べてみたら、それもそのはず。メジャー12試合目で、打たれたファウルは最多の30球だったのだ。
しかし、その内容は数字には見えない苦しいものだった。ア・リーグ西地区の首位を快走するアスレティックス打線は、メジャー屈指の選球眼に定評がある。追い込まれても簡単には終わらず、ファウルで粘る。打線が文字通り「線」としてつながり、チーム全体でやるべきことが徹底されていた。
この日の決め事は、田中の武器である低めのスプリットに手を出さないこと。おそらく、「低めストレートの見逃し三振はOK」だったはずだ。
4回まで田中に67球を投げさせ、5回には93球、6回には104球。田中を6回で交代せざるを得ない状況を作り出した。
「ファウル」をキーワードにして、これまでの登板を振り返ってみると、メジャー初完封を飾った5月15日のメッツ戦は9イニングでわずか10球。ここまでの11試合では1試合平均18.6球。それが、この日のアスレティックス戦では6イニングで30球。いかにしつこく食らいついていたかが分かる。
■ 2ストライク後のファウルもメジャー最多 「引き出し」の多さで難敵を下す
もちろん、バッテリー側に立てば「カウントを稼ぐファウル」も存在する。たとえば、左バッターの内角にスライダーを投げて、ライト側にファウルを打たせる。計算づくのファウルだ。
ただ、アスレティックス打線は2ストライク後のファウルも際立っていた。これも田中にとってメジャー最多となる14球。簡単に空振りをしない。
顕著だったのは、5回表、先頭打者の7番・ボート。1-2と追い込まれたあと、ストレート、スライダーをファウルにし、低めストレートを見極め2-2。そして、低めスプリット、内角ストレートをカットして、今度はスプリットを見極めフルカウント。ここからスライダーをファウルにしたあと、インコースのストレートを詰まりながらセンター前に運んだ。
この5回に投じた球数は26球。2アウト一、二塁から何とかゼロに抑えたが、とにかくしつこい打線だった。
それでも田中は負けなかった。勝因のひとつは「引き出し」の多さだろう。
ボートに打たれた場面も、田中は2球続けて同じ球種を使わなかった。
4回表には2アウト一、二塁のピンチで6番・ラウリー。追い込んでから4球粘られたが、ここでも2球続けた球種はひとつもなく、最後は左打者のインコースに食い込むカットボールで空振り三振に仕留めた。
「ファウルで粘って球数を多く投げさせるなど、粘り強いチームでタフなゲームだった。そのなかで、バッターを打ち取るという気持ちはずっと持っていたし、我慢比べなら負けないぞという感じで投げた」とは試合後の田中のコメントである。
まさに、この言葉どおりのピッチング。難敵・アスレティックスを下しての9勝目。6月中の二桁勝利が現実味を帯びてきた。
文・大利実(おおとし・みのる)