ジンクスとはまるで無縁…
昨季のセ・リーグ新人王、村上宗隆の勢いが止まらない。
4番打者としてシーズン開幕から勝負強い打撃を見せ、7月には「月間31打点」をマーク。これは球団の日本人選手としては新記録であり、6・7月のリーグ月間MVPにも選出されている。
昨季は36本塁打を放ち、高卒2年目の選手としては“怪童”こと中西太に並ぶ記録であることが話題となった。
一方で、リーグワーストとなる184三振を喫し、打率も規定打席到達選手では最下位となる.231。粗削りな印象は否めなかったが、今季はここまで打率3割以上を常にキープ。セ・リーグ首位打者争いに名乗りをあげるほど、確実性も増しているのだ。
今季でプロ入り3年目、弱冠20歳ながらスラッガーとしてとてつもない成長を見せている村上。歴代の選手を見渡したとき、村上のような進化をたどったスラッガーはどんな選手がいたのだろうか。
10代での2ケタ本塁打達成者
今回調べたのは昨季の村上同様、10代にして2ケタ本塁打を記録した選手たち。彼らの3年目までの成績を並べ、村上と比較してみた。(※球団名は当時のもの。村上の成績は8月25日終了時点)
▼ 中西 太(西鉄)
<1年目成績>
率.281 本12 点65
☆新人王
<2年目成績>
率.314 本36 点86
☆本塁打王・打点王
<3年目成績>
率.296 本31 点82
☆本塁打王
▼ 豊田泰光(西鉄)
<1年目成績>
率.281 本27 点59
☆新人王
<2年目成績>
率.241 本18 点63
<3年目成績>
率.275 本23 点76
▼ 榎本喜八(毎日)
<1年目成績>
率.298 本16 点67
☆新人王
<2年目成績>
率.282 本15 点66
<3年目成績>
率.269 本9 点50
▼ 張本 勲(東映)
<1年目成績>
率.275 本13 点57
☆新人王
<2年目成績>
率.302 本16 点56
<3年目成績>
率.336 本24 点95
☆首位打者
▼ 清原和博(西武)
<1年目成績>
率.304 本31 点78
☆新人王
<2年目成績>
率.259 本29 点83
<3年目成績>
率.286 本31 点77
▼ 松井秀喜(巨人)
<1年目成績>
率.223 本11 点27
※規定打席未到達
<2年目成績>
率.294 本20 点66
<3年目成績>
率.283 本22 点80
▼ 村上宗隆(ヤクルト)
<1年目成績>
率.083 本1 点2
※規定打席未到達
<2年目成績>
率.231 本36 点96
☆新人王
<3年目成績>
率.332 本10 点45
球界のレジェンドがズラリ!
中西太と豊田泰光の西鉄黄金期を支えたコンビに、NPB通算2000本安打の最年少記録を持つ榎本喜八。NPB通算安打の最多記録を樹立した張本勲に、通算500本塁打越えの清原和博、松井秀喜と錚々たるメンバーが名を連ねている。
1年目からレギュラーを張った選手は、2年目を迎えると相手チームから研究されるケースが増えたのか、打率をはじめとした打撃成績が下降する傾向にあるようだ。榎本は3年目もさらに成績を下げてしまったが、多くの打者は3年目に巻き返している。
そのなかでも凄い数字を残しているのが、中西と張本だろう。
中西は2年目から長打力が増し、前年よりも3倍増となる36本塁打を放ってタイトルを獲得。翌年は31本塁打と本数こそ減らしたが、2年連続の本塁打王に輝いている。
張本は年々打撃成績が向上。3年目には自身初の首位打者に輝いている。
ちなみに、張本は4年目にはMVP、9年目からは4年連続で首位打者を獲得。「安打製造機」の異名で知られるようになった。
狙ってもらいたい「三冠」
過去を振り返れば振り返るほど期待が膨らんでいく、ヤクルト・村上の未来像…。
今季はチームメイトの山田哲人の不調などもあり、マークが集中していることもあって、本塁打こそ出場54試合で10本となっている。
しかし、己を律してボール球には手を出さず、時には四球を選んでチャンスメイクすることに徹し、甘く入ってきた球を逃さずに仕留める。四球の増加と確実性の向上を経て、首位打者を争うほどの打率を残しているのだ。
加えて、打点45もリーグトップタイ。得点圏打率も.400と、4番に座って3年目・20歳とは思えぬ風格を漂わせている。
シーズンが短縮され、120試合制で行われている2020年シーズン。本塁打は現在のペースでは大台の30本に届かないかもしれないが、シーズン30本塁打を打てるだけのパワーを持っているのは誰の目にも見てあきらか。
実は意外にも、名前が挙がったレジェンドたちのなかで、三冠王を達成した選手はいない。「でも村上なら…」。そんな期待も膨らむばかりだ。
三冠王、そして球界のレジェンドへ――。村上宗隆の“伝説”を見続けていきたい。
文=福嶌弘(ふくしま・ひろし)