コラム 2022.02.17. 19:05

「笑え」の新庄、「笑うな」の立浪、新人監督の目指すもの【キャンプの“ツボ”】

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練習試合前、打撃談議を交わす日本ハム・新庄監督(左)と中日・立浪監督 (C) Kyodo news

第3回:キャンプで見えた両新人監督の指導方法


 日本ハム・新庄剛志、中日・立浪和義両新人監督が、早くも沖縄キャンプで激突した。

 16日、北谷での練習試合は7対4で立浪竜に軍配。もっとも、この時期は若手のテスト期間であり、勝敗は関係ない。そんな中でも打線強化に注力する中日はルーキーの鵜飼航丞選手(ドラフト2位、駒沢大)が特大アーチを放つなど4本の本塁打で打線爆発、「打ちまくるキャンプ」の成果が現れつつある。

 一方の新庄ハムも“らしさ”全開だ。

 6回、選手交代を告げるBIG BOSSは「盗塁、五十幡」のコール。2年目の快足・五十幡亮汰選手の役割まで事前通告?している。指揮官の思惑通りに、五十幡は二盗、三盗まで決めているのだから、こちらも走塁の意識改革は進んでいる。

 おまけもあった。試合前には新庄監督直々の依頼で、清宮幸太郎選手に対して「立浪臨時打撃教室」が開かれている。伸び悩む大器もプロ5年目。同じ高卒で1年目から活躍、通算2480安打の打撃の天才から、少しでも浮上のきっかけをつかんでもらいたい、と言う指揮官の親心が生んだ異例の光景だった。


星野仙一と落合博満から受け継いだ厳しさ


 “動”の新庄、“静”の立浪。両監督のすべり出しは対照的である。最も象徴的な指導方針はキャンプ序盤に見て取れる。

 初日に全選手の前に立った立浪監督は、開口一番でアップの際の私語禁止を通達すると「へらへらやっている選手は外すよ」と、これまで以上に緊張感を持って練習に取り組むよう訴えた。笑っている場合じゃないよと言う訳だ。

 一方の新庄監督がブルペンで投球中の堀瑞輝投手に出したアドバイスは「笑いながら投げてみて」とスマイル投法だ。力を入れ過ぎずにリラックスして投げられるのがメリットだと言う。これも理に適っている。

 両者に違いがあるとすれば、立浪監督が真剣勝負の「道場」を求めているのに対して、新庄監督は、従来の殻を破って明るく、楽しくの「劇場型」を目指しているのだろう。

 今年の中日キャンプを訪れた多くの評論家諸氏が、昨年までとの変化に驚くと言う。「立浪イズム」とも言うべき、厳しさが前面に出ているからだ。指揮官だけでなく、新任の中村紀洋打撃コーチは、スタメン定着まで期待される根尾昂選手の打撃練習中に、雄叫びをあげていると「声でごまかすな!」と一喝。「バッティングは本来、奥歯を噛みしめて打たなくては力が入らない」と説く。

 昨年はセリーグナンバーワンの投手陣を有しながら、打線はチーム打率(.237)本塁打(69)ともワースト。まずは打撃陣のテコ入れが急務だ。

 立浪監督の師匠と言えば星野仙一元監督である。時代の違いはあるが、選手が試合中にへらへらしていたら鉄拳が飛ぶ、他球団選手とも仲良くするのも嫌った。立浪が現役晩年の時には、落合博満監督が隙の無い野球で黄金期を築く。こちらは「プロならやることは決まっている。普通に出来て当たり前、その上を行くのがレギュラー」と徹底した猛練習で鍛えている。立浪監督の指揮官としてのDNAは、こうした先輩監督の厳しさを受け継いでいるのだろう。


低迷打破へ必要な改革へのエネルギー


 新庄監督のキャンプ中盤までを見ると、一、二軍を分け隔てなく見て、レギュラーは白紙と競争を煽り、自身の得意分野である守備、走塁で意識改革を図ろうとする意図が読み取れる。

 3年連続5位に沈んだチームの浮上は決して容易でない。特に打線は昨年途中に中田翔選手が巨人に移籍。シーズンオフには西川遥輝、大田泰示両選手らの主力を放出して若返りの最中。現時点でクリーンアップさえ固まっていない。

 こうした苦境をはね返すには、新庄監督の持つ明るさと既成概念に捕らわれない改革へのエネルギーが必要となる。

 もちろん、「笑うな」の立浪竜に明るさがないわけではない。厳しさの中に明るさは保たれている。逆に新庄ハムも笑いばかりではない。練習試合の先発メンバーを決定する際には「毎晩、夜間練習を欠かさない選手を視野に入れた」と厳しさものぞかせた。要は選手へのアプローチの違いなのだ。

 12球団の監督は、それぞれがチームの現状と課題を見つけながら強化に何がベストかを追い求めていく。打撃職人の立浪と稀代のエンターテイメント・新庄が何を選手に伝え、どうチームを生まれ変わらせていくのだろう。答えを出すのは選手たちだ。

文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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