第3回:打撃を牽引する両外国人の守備問題
「試練は続くよ、どこまでも」。これは最近の原辰徳監督の言葉だ。
“魔のゴールデンウィーク”に1勝8敗。一時は4位にまで転落したチームは、その後にV字回復。戦列を離脱していた菅野智之、吉川尚輝らの主力選手が復帰して、18日現在(以下同じ)直近の5試合は4勝1敗と再び、首位をうかがう勢いが戻ってきた。
それでも、指揮官に威勢のいいゴーサインが出ないのは、まだまだ理想の戦いには程遠いからである。
チーム得点が180に対して失点は185。同防御率3.53はリーグ5位と胸を張れる数字ではない。
17日の広島戦では遠藤淳志投手の前に8回まで打線は沈黙、ようやく9回に捕まえて逆転サヨナラ勝ちこそおさめたが、本来、広島の守護神である栗林良吏投手がコンディション不良でベンチ入りメンバーから外れていなければ零敗もあったケースだ。翌18日の同カードでも、グレゴリー・ポランコとアダム・ウォーカー選手による2発だけ。首脳陣にとっては薄氷を踏むような進軍だろう。
浮き沈みの激しいチーム状態にあって近頃、クローズアップされているのが守備の不安定さだ。比較的、堅守と言われた昨年までと打って変わって33失策は目下、12球団ワースト。坂本勇人、吉川の二遊間コンビが故障離脱したのも大きいが、最も不安視されているのはポランコとウォーカーの新外国人選手。しかもこの両助っ人が現在の打線を牽引しているだけに、痛し痒しの状態が続いている。
打撃だけを見ればウォーカーが打率.290、ポランコが.280で共に8本塁打。昨年のジャスティン・スモーク、エリック・テームズ両選手が途中帰国したのと比較しても十分機能している。しかし、守備に関しては何とも危なっかしい。
18日の広島戦では6回無死一・二塁から小園海斗選手が右前打。決して俊足と言えない二走のライアン・マクブルーム選手が楽々生還している。ポランコの緩慢な守備力を見切っての走塁だ。
そのポランコより不安視されているのがウォーカーの左翼の守備だ。開幕直後には、カットマンに返球するボールを地面に叩きつけたり、あらぬ方向に投げたりで、「イップス説」が流れたほど。今ではライバル5球団は「レフトに打球が飛べば、迷わず本塁へゴー」が共通認識となっている。
「打」は優等生で、「守」は問題児。現状を見る限り、ポランコとウォーカーが打線を牽引しているのだから、レギュラーからは外せない。だが、今後打撃に陰りが見えてきたときは悩ましい。ザル守備の3割打者と2割5分の堅守ならどちらの価値が高いのか? チームの編成や状況によって判断は分かれるところだが、今後厳しい戦いが続く中で一つのミスが命取りになる事は原監督自身が一番知っている。
守備面の不安要素は解消できず
そんな“守乱”の波紋は担当コーチにも広がっている。
今季の守備担当は内野が村田修一(打撃と兼務)、外野が亀井善行(走塁と兼務)両コーチだが、その上に阿部慎之助作戦兼ディフェンスチーフがいる格好だ。しかし、村田コーチは打撃指導に定評があり、亀井コーチも新任で「経験は浅い。こうした布陣に評論家からは「守備を重視するなら二遊間出身の専任コーチが必要」という指摘もある。
優勝を逃した昨年の反省から原監督は、コーチの責任を明確にするために組織改編を行っている。「ヘッドコーチ」や「総合コーチ」の肩書では、どこまで指導できるのか? あいまいな部分を廃して、オフェンス、ディフェンス、投手の3部門にチーフコーチを置いて細分化した。しかし、若返りを図るだけに外国人選手だけでなくミスは出やすい。
投手陣を見ても現在5勝でハーラーダービーのトップを行く戸郷翔征投手にしても内容的には不安定さが目につく。先発定着を狙う髙橋優貴投手は制球難で指揮官の怒りを買っている。若手投手たちも投げてみなければわからない。これだけ守備面に不安要素が多くては、原監督の言う「試練」は続く。
2019年からリーグ連覇した原巨人だが、日本シリーズではソフトバンクに完膚なきまでに叩かれて日本一の座を逃した。攻・守・走にわたって味わったレベルの差。あの屈辱から這い上がるためにも現状に満足などしていられない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)