白球つれづれ2022~第48回・坂本の復活を期する巨人首脳陣の意図とは?
巨人・原辰徳監督は「サプライズ」と言う言葉を使った。
23日に東京ドームで行われたファンフェスタ。「サプライズ」と前置きしたうえで来季からの新主将に岡本和真、副主将に吉川尚輝、投手キャプテンに戸郷翔征各選手の新体制が発表された。
確かに8年間、主将を務めてきた坂本勇人選手から、いきなり26歳の岡本へのバトンタッチに多少の驚きは覚えるが、吉川が27歳で、戸郷に至っては22歳。これまで投手は菅野智之、野手なら坂本のツートップから、若返りを図りたい首脳陣の意図が垣間見えて来る。
坂本に関して、原監督は「卒業」と言う言葉を使った。
「卒業させます。少しチームの事、全てを考えるのではなく、少し個人というものを。楽に戦わせようと思いました」。
名門球団の屋台骨を背負ってきた坂本の足跡は、近年の巨人の戦いを象徴してきたと言っても過言ではない。
入団2年目から遊撃のレギュラーを掴むと、順調に数字を伸ばして2016年には首位打者、19年に3割、40本塁打を記録してMVP。翌年には31歳の若さで2000本安打も記録している。坂本の存在が巨人の強さの象徴でもあった。
そのチームリーダーの働きに陰りが見え出したのは昨年からである。
試合中の走塁で右手親指の骨折をはじめ、腰痛も発症。さらに今季は右脇腹の筋損傷などの故障だけでなく、コロナにも罹患するなど出場試合数は83試合と激減。打率.286は及第点としても、5本塁打、33打点と自己ワーストの成績に終わっている。この2年間でチームは3、4位と低迷するが、坂本の不振が大きな要因となったことは間違いない。
野球人として、曲がり角に差し掛かった上に、個人的にも大きな問題を抱えこんでいる。一部マスコミで女性とのトラブルが報じられ、ネットなどでは今でも騒がれているのだ。本人、球団からは説明がないものの、騒ぎ自体が大きなイメージダウンにつながっていることも確かだ。
「無役」となった坂本は来季、復活を成し遂げられるか
まさに「内憂外患」状態の坂本への配慮なのか、球団はこのオフに興味深い動きを見せている。広島から37歳の長野久義、ソフトバンクからは39歳の松田宣浩両ベテラン選手を獲得。若返りを図るチーム方針とは一線を画す補強だが、表向きは手薄な右の代打陣の強化を図るものだ。しかし、もう一つの“坂本シフト”と見る向きもある。
長野の無償トレードは広島側から「現役を引退する時は(古巣の)巨人がベスト」との申し入れがあって実現したものだが、長野は坂本が兄のように慕ってきた先輩、何かと相談しやすい。
“元気印”の松田は、チームが停滞ムードに陥った時に「喝」をいれるには最適の人物。おとなしいと言われる岡本新主将をフォローして、坂本の負担も軽減される。戦力面だけでなく、ポスト坂本への布石と見てもおかしくない。
18年オフに坂本は年俸5億円の5年契約を結んでいる。来季が最終年となる。この契約は最初の3年が固定制で4年目以降は変動制と言われている。つまり、4年目にあたる今季が好成績なら、さらにアップ。逆に不成績ならダウンもあり得るというものだ。
普通に見れば、自己ワーストに終わったこのオフの契約では大幅ダウンが必至。そして、来季はまさに背水のシーズンとなる。
近年は野手の王様として君臨してきた坂本時代は終わりを告げようとしているのか? それとも原監督が期待するように、原点に立ち返って復活を成し遂げるのか?
最近では、持病の腰痛もあって、負担の大きい遊撃からコンバート案も囁かれている。一方で、中山礼都、廣岡大志、北村拓己らが名乗りを挙げる「ポスト坂本」の顔ぶれでは、まだまだ心もとない。
勝負の23年。それでもチームの命運は「無役」となった坂本が握っている。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)