白球つれづれ2022~第50回・新天地で“大化け”できるのか? 現役ドラフト1期生にかかる期待と責任
三冠王、ヤクルトの村上宗隆選手が破格の3年18億円で契約を更改した今月9日、都内で注目の会議が開催された。第1回の現役ドラフトだ。
村上がスーパーエリートだとすれば、こちらは「埋もれた選手に活躍の場を」と4年前から選手会側が要望し、ようやく実現にこぎつけたもの。どんな規模で、どんな顔ぶれが揃うのか? 注目が集まった。
まずは成立したドラフトの結果を指名順に列記する。
<日本ハム> 松岡洸希 (西武)
<西武> 陽川尚将 (阪神)
<阪神> 大竹耕太郎 (ソフトバンク)
<ソフトバンク>古川侑利 (日本ハム)
<広島> 戸根千明 (巨人)
<巨人> オコエ瑠偉 (楽天)
<楽天> 正隨優弥 (広島)
<中日> 細川成也 (DeNA)
<DeNA> 笠原祥太郎 (中日)
<ロッテ> 大下誠一郎 (オリックス)
<オリックス> 渡邉大樹 (ヤクルト)
<ヤクルト> 成田翔 (ロッテ)
※指名順は事前に各球団から提出された候補選手(2名以上)をもとに「人気投票」を行い、最多得票球団が1番目。以降指名された球団が指名していく。途切れた場合はウェーバー順などで指名を再開。( )内は旧所属球団。
残念ながら2巡目は、手を上げる球団と希望選手が合致せずに実現しなかったが、関係者の話を総合すると「まずまずの結果」に落ち着いたようだ。
指名選手の特徴をさらに調べると、入団時のドラフト1位組はオコエ、同2~3位の上位組は戸根、陽川ら4人。4位以下の下位組が古川、細川ら5人で、育成出身も大竹、大下の2人がいる。最年長は31歳の陽川で、年俸2200万円もこの中では最高給。逆に最年少は松岡の22歳で年俸600万円も最少額となる。
いずれの選手も旧球団では一軍レギュラー定着に届かず、もしくは将来性を期待されながら伸び悩んでいた存在で、「環境が変わったら“大化け”も」と言う現役ドラフトの狙いと合致しているだろう。
最もファンが驚いたのは西武に移籍の決まった陽川か?
阪神での9年間で一軍出場は301試合、今季も45試合ながら打率.294の好成績を残しているから「すごく驚いた」の第一声もうなずける。
内外野も守れて、本塁打も期待出来るパワーヒッターだが、阪神では今季まで中堅・近本光司、右翼に佐藤輝明がいて、左翼は外国人選手の指定席では代打の一角に食い込むのが精一杯。それが西武に目を転じると、秋山翔吾選手のメジャー移籍(現在は広島)以降、外野陣は横一線でレギュラー定着はいない。さらに右の強打者も少なく、活躍の場は広がりそうだ。
現役ドラフトが日本球界の人材再発掘として定着するために
今ドラフトで「順当」と見られているのが、オコエと細川である。
走攻守三拍子揃った大型選手として鳴り物入りで入団したオコエも今季で7年目。故障もあったが、ムラッ気のある精神面が問題視され、年々一軍での出場機会も減っていた。このままでは「宝の持ち腐れ」と危惧されていただけに、巨人で心機一転の働きを期待したい。
同じく、右の大砲としてクリーンアップも狙える素材と目された細川も外野の層が厚いDeNAでは、花を咲かすことは出来なかったが、打線の構成に悩む中日なら、飛躍的な成長も見込まれる。両選手とも環境が変わることで、どんな「化学反応」が起こるのか、興味深い。
故障に泣かされた者、一軍の厚い壁にもがき苦しむ者、レギュラーの座に手をかけながら一歩届かなかった者。事情は様々でも成功者は巡ってきたチャンスを確実に生かしている。再チャレンジの場を提供された現役ドラフト1期生の働きは今後の球界に一石を投じる可能性まである。
会議に出席した広島・松田元オーナーは、将来的に「12球団が集まってトレード会議も」と語ったと言う。今回は1巡で終わったが、2巡、3巡目が当たり前となったら、文字通りのドラフト会議となる。選手会主導で議論されてきた現役ドラフトに経営者側も前向きになってきたら、大きな前進と言えるだろう。
このオフにはオリックスの吉田正尚、ソフトバンクの千賀滉大ら大物選手のメジャー移籍が相次いで発表された。この先もオリックス・山本由伸投手の海外挑戦が確実視されている。ある意味では「空洞化」が進む日本球界の人材再発掘と言う観点からも、2年目以降の成否に目が離せない。
まずは新天地に飛び立つ“ドラフトルーキー”たちがこれまでとは違う結果を出す事。その責務は大きく、重い。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)