白球つれづれ2022~第51回・広島の球団アドバイザーに就任した黒田博樹氏への期待とは?
今月17日、都内で駒澤大野球部OB会主催のパーティーが開かれた。
主役は広島の新監督に就任した新井貴浩氏で、盛大な激励会となった。
5年ぶりの古巣復帰だが、佐々岡真司前監督時代は3年連続のBクラス、今季も5位に終わったチームの再建には茨の道が待ち受ける。
「カープはまだ戦力が薄いので“優勝”とか、そういうコメントは差し控えさせていただきたい」とOB会長でもある中畑清元DeNA監督の祝辞も控えめだったが、本人は「優勝を狙うのは当然。やる前から負けることを考える奴がどこにいる」とルーキー監督の心意気を語っている。
プロ入団はドラフト6位の下位指名。駒大時代は粗削りなパワーヒッターで、「野球は下手」と先輩からもからかわれてきた。
だが、ひたむきな猛練習で一流選手となり、本塁打、打点のタイトルも獲得。明るいキャラクターで人気者にもなった。2008年にはFAで阪神に移籍、15年から再び広島に「出戻った」経緯もあり、将来の監督候補とは目されていたものの、45歳の若さで指揮官就任は本人も予想外の出来事だったようだ。
確かに、中畑氏が言う通り、今のカープは再建途上のチーム。現状のままでは優勝も見えて来ない。
今季のチーム成績を見ていくと打率.257はリーグトップながら、同防御率3.54はリーグ5位。中でも同盗塁26はNPBのシーズン最少記録(25)をわずか1個上回るだけというひどさだ。緒方孝市監督時代にリーグ3連覇を果たした頃は毎シーズン100以上の盗塁数を誇り、機動力が売り物だった赤ヘルの伝統はなくなったに等しい。
「黄金タッグ」でチーム再建の第一歩へ
かつての主力だった丸佳浩は巨人に移籍、鈴木誠也もメジャーに渡った。主軸選手の相次ぐ流失も弱体化を招く要因ではあったが、それを補う若手の育成と広島らしいそつのない野球が出来なくなってしまったことが、長期低迷に拍車をかけている。
「カープの伝統はグラウンドを走り回る野球。打つ方と走る方の両方でプレッシャーをかけられるチームにしたい」就任会見で新井監督が語った言葉だ。
野手出身らしく攻撃面でビジョンを描く新指揮官は“秘密兵器”も用意した。それが、もう一人のレジェンドである黒田博樹氏の球団アドバイザー就任である。
日米通算203勝の大エースは新井監督の2歳年上。14年に2人揃って広島復帰すると、その後の3連覇の礎を築いた。18年を最後に新井監督が現役引退する時には黒田氏が自費で地元の中国新聞に労いの全面広告を掲出するなどその絆は固い。今回は新井監督、たっての願いで特別アドバイザーが誕生した。
黒田氏の正式就任は来年の1月1日付だが、今月13日には早速、新入団選手の前にサプライズ登場。自身の体験も踏まえて、プロの厳しさや心構えを伝えた。
黒田氏と言えば「男気」が代名詞の野球人。広島からFAを行使してメジャー挑戦を志した06年には、ファンが「君が涙を流せば、君の涙になってやる」と書かれた横断幕を球場に掲げる姿に一度は残留を決意。その後7年間のメジャー生活で成功を収めて複数球団からの巨額オファーを受けても、古巣・カープのために帰国を決断している。
投球術はもちろん、広島に対する「チーム愛」から40歳を過ぎてもエースとして投げ続けた、不断の努力こそが“生きた教科書”となる。
現在の投手陣を見ると、上位争いをするには森下暢仁、大瀬良大地の二枚エースだけでは心もとない。九里 亜蓮、床田寛樹両投手らが、10勝以上を上げたうえで、若手の成長が望まれる。ハードルは高いが「黒田教室」で触発された新戦力が生まれればチームは生まれ変わる。
新井監督の明るさと厳しさに、黒田アドバイザーの存在が、来季広島の再建への第一歩となる。米国に生活拠点を置く黒田氏の指導は限定的となるが、来春のキャンプから本格始動予定だ。
「黄金タッグ」がチームにどんな化学反応をもたらすか。ファンならずとも興味深い一点である。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)