コラム 2023.06.19. 19:00

“中東マネー”が野球界にも【白球つれづれ】

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ドバイ国際スタジアム

白球つれづれ2023・第25回


 サッカー、ラグビーにバスケット、バレー。W杯が花盛りである。

 スポーツはワールドワイドの規模になり、全世界から注目を浴びる時代になった。

 それでも驚きのニュースは、まだある。中東に初のプロ野球リーグが誕生すると報じられたからだ。

 5月中旬に配信された記事をそのまま紹介する。

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中東、南アジアで初のプロ野球リーグ「ベースボール・ユナイテッド」が15日、
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで、最初の球団「ムンバイ・コブラズ」を発表した。
11月にドバイ国際球場で、4球団が参加する初のトーナメント大会を開催する。24年秋には8球団に拡大し、
リーグ戦を発足する。同リーグは元ヤンキースのマリアノ・リベラ氏や元レッズのバリー・ラ―キン氏が出資している。
(5月16日付 日刊スポーツ紙)
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 WBCで、侍ジャパンが世界一に輝いた余韻も残る中、野球不毛の地と言われる中東に新リーグ誕生は球界全体にとっても喜ばしい出来事である。しかし、気になる点もある。いわゆる“中東・オイルマネー”による新団体結成は過去に大きな問題も引き起こしているからだ。


“中東マネー”による有力選手流失問題


 昨年、ゴルフ界に激震をもたらした「livゴルフ」問題。

 サウジアラビアの政府系投資ファンドが設立した新団体は1大会の賞金総額が2000万ドル(約27億円)とけた外れの巨額。そこに米国を主戦場とするPGAツアーの有力選手、フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソン選手らのトッププロがこぞって参戦。そこで長く米ツアーを主催してきたPGA側と激しく対立が起こった。

 選手にとっては新たな賞金獲得の場が出来るが、機構側では有力選手の流失は、大会そのものの死活問題に直結する。一時は選手の資格はく奪まで険悪化したが、今年に入って、両者が歩み寄り共存共栄の道が開かれた。

 問題の根幹が“中東マネー”にあることは、野球の新リーグでも指摘されている。サウジアラビアも、UAEも世界屈指の石油産出国で資金力は先進国をはるかにしのいでいる。彼らがスポーツビジネスに乗り出せば、従来の大会規模や秩序まで破壊するパワーがあるのだ。

 「livゴルフ」を例にとれば、現役選手だけでなく往年の名ゴルファー、ジャック・ニクラウス氏にも1億ドル(約135億円)出場オファーが届いたと言われる(本人は辞退)。

“中東マネー”の猛威は野球以外にも吹き荒れている。サッカー界の超スーパースターであるクリスティアーノ・ロナウド選手は今春、サウジアラビアのアル・ナスルFCに移籍する際、約290億円の年俸を手にしている。

 こうした例を見ると今後野球界にも変革の嵐がやってきてもおかしくない。

 極端な話ならヤンキースのアーロン・ジャッジや大谷翔平選手だって、移籍話が持ちあがる可能性はゼロではない。もっと現実的に見れば日本や韓国でプレーする選手に高額オファーが届けば心が揺らぐ者も出てくるだろう。

 もちろん、初の中東リーグが発展すれば野球界にとって喜ばしいことである。

 一方でけた外れの「札束攻勢」にさらされた時、球界の秩序はどう保たれるのか?

 恐るべき中東マネー。関係者は今から知恵を絞り出す必要がありそうだ。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)
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