CSを争うチームの中で存在感
8月20日、DeNAは中日に2-1で競り勝ち、連敗を3で止めた。初のCS(クライマックス・シリーズ)進出圏内に踏みとどまっての終盤戦、打線がふるわず苦戦が続く中での“1勝”には大きな価値があった。
この試合でマスクをかぶり、先発の山口俊から中継ぎの田中健二朗、抑えの山崎康晃と、投手陣の持ち味を引き出してチームを勝利に導いたのは高城俊人だった。
得点は初回にあげた2点のみ。3回には1点差に追い上げられるという緊迫した展開でも、集中力を切らすことなく最後までリードを守り切った。
新たなライバルは“年上の後輩”
九州国際大付属高からドラフト2位でプロ入りして5年目。今季の高城が置かれた立場は少々“複雑”だ。
評価されるべき点はまず、ここまでシーズンを通して一軍で戦い続けていることである。
昨季は嶺井博希、黒羽根利規と肩を並べ、出場機会を均等に分け合った。今季は嶺井が10試合(いずれも途中出場)、黒羽根が一軍昇格なしという状況を見れば、39試合(うち27試合は先発)の出場を果たしている高城が3人の中では一歩抜け出したという見方ができるだろう。
しかしその一方で、ラミレス監督が選んだ捕手の一番手は社会人出身のルーキー・戸柱恭孝。23歳の高城にとって、26歳の戸柱は「プロでは後輩、学年では先輩」ということになる。
昨季の競争には生き残ったが、“年上の後輩”という新たなライバルが出現――。このあたりが高城の立場の難しさなのだ。
しかし、当の本人はそうした状況にやりづらさや戸惑いは一切感じていないと言う。
「一緒になって戦っている感じ」
「もちろん最初は悔しかったです。でもシーズンが始まってからは、自分に与えられた出場機会の中で結果を残すことだけを考えるように切り替えました。途中から出場することも多いので、そういう時でも必ずゼロで抑えられるように。そのための準備は欠かさないようにしています」
スタメンであってもベンチ待機であっても試合に臨む気持ちは同じだと、高城は続ける。
「あくまでも試合に勝つために、トバ(戸柱)さんと2人で意見を出し合いながらやっている。トバさんが出ている試合で気づいたことがあれば僕も言うし、トバさんも僕が試合に出ている時にはいろいろと言ってくれます。2人でやってるというか、トバさんが出ている試合でもトバさん1人でやってるとは僕は思わないですね。いつも一緒になって戦っている感じです」
たとえば1点リードのまま終盤に突入する競った展開の時、戸柱がふと「あと1点ほしいな……」と、弱気な胸中を口にすることがあるのだという。そんな時、高城は「大丈夫ですよ! 流れはこっちに来てますから」と試合を俯瞰した目線から励ましの言葉をおくる。
新人らしからぬ安定感が評価される戸柱も、緊迫した試合が連日続く長丁場のペナントレースは初体験だ。一日の長がある高城の存在は心強いに違いない。
そんな2人の関係性を見抜いているのがラミレス監督である。捕手2人体制で臨む意図を訊かれた指揮官は、こう答えたという。
「戸柱に週4試合任せて、残り2試合が高城。キャッチャーの2人は目に見えて成長している。お互いに信頼関係にあるので2人体制にした」
「まずはCS出場」
ここまで115試合を戦い抜いてきた戸柱と高城。その成長とチームワークが感じられるからこその“2人体制”なのだ。
高城はシーズン当初、山口の先発時に限っての起用がほとんどだった。だが、先発マスクの回数は徐々に増え、4月の4試合から5月は5試合、6月6試合、7月7試合と月の歩みに合わせるかのように着実に出番が増えている。
それだけ戸柱の肉体的負担を軽減させながら、先発した27試合で15勝としっかり結果も残してきた。
もちろん2番手の現状を良しとせず、「課題はバッティング」と厳しい目を自分に向けるが、今は個人間の競争よりもっと大事なことがある。
「まずは最低限CSに出場すること。変なプレッシャーを感じないようにして、目の前の1試合1試合を大事に戦っていきたいと思います」
ルーキーたちは経験していない首位ターンからの最下位転落という昨季の悔しさも骨身に染みている。プロの戦いの本当の厳しさを知る第2捕手の存在は、これからさらに重みを増してくることだろう。