白球つれづれ~第25回・大谷翔平~
球界のうるさ型、失礼、大御所のご意見番と言えば野村克也と張本勲の両氏。この二人も最近の日本ハム・大谷翔平の活躍を見るにつけ賞賛の言葉しか出てこないようだ。9月25日に行われた対楽天戦。1点を争う緊迫したゲームも延長戦の末に日本ハムのサヨナラ勝ち。同点に追いついた8回も大谷のタイムリーなら延長11回も22歳の若武者が中越え二塁打で口火を切ると最後は相手の暴投で生還。攻撃面では大谷一人で試合を決めたようなものだ。
「大谷サマサマだな」「将来のONになる素材」と、その夜のテレビでうなったのはノムさん。一時は「投手に専念すべき」と力説していたハリさんも、最近では打者・大谷に二重丸を与えている。この日の3安打猛打賞で年間安打数は102を数えた。打率.321は規定打席不足ながらリーグ2位に相当し、投手に目を転じると防御率1.99(記録はいずれも25日現在)は同じく堂々の「隠れ1位」だ。
投手で2億、打者で2億。これに超人的な活動と人気面、さらに優勝したらⅤご祝儀まで加味してプラス1億の〆て5億円と勝手に来季年俸を予想した。今季の年俸が推定2億だから決してあり得ない数字ではない。今や「球界の宝」の称号は誰も異存がない。一部の週刊誌では「人間国宝」の見出しまで踊っている。
“二刀流”大谷のもう1つの才能
いやはや、この男のポテンシャルの高さには驚くしかない。
そのポテンシャルついでに、もうひとつ注目したいのは「走力」である。目下の盗塁数は7。一見平凡な数字に見えるが投手兼打者として出場試合数も限られる立場を考えると特筆すべき数字だ。ちなみに過去の投手の盗塁を調べてみると指名打者制を敷くパリーグではほとんど走った投手は見当たらない。
1971年の足立光宏(阪急)の4個、74年の竹村一義(阪急)の5個にさかのぼる。しかも大谷の場合は単に盗塁だけでなく走塁のセンスが抜群だ。一塁走者として、続く中田の二塁打の間に長躯ホームへ生還といったシーンは何度も見られるがこんな印象に残る場面も紹介しておきたい。
7月下旬の西武戦のこと。走者を二塁に置いて右前打を放った大谷は右翼手がカットマンの二塁手に返球したにもかかわらず、一瞬のスキを突いて二塁に激走。シングルヒットを二塁打にしてしまった。
この場面、右翼からの返球が直接ホームへ投げたケースでは二塁に進むことは難しくない。しかし、二塁手は右翼手と本塁を結ぶ線上にセオリー通り入っている。大谷の打球に備えて守備位置が深かったこと、返球スピードと二塁手の動きまでを瞬時に判断したビッグプレーだった。専任野手でもめったに見ることが出来ない走塁センス。つまり走者としても一級品なのだから二刀流どころか「三刀流」の称号を与えてもいい。
指揮官たちの見解
「(出身校の)花巻東という学校は日頃から走塁の練習もきっちりやっているからね」というのは栗山監督。盗塁や次の塁を狙う激走にはケガの心配はないのか?と問うと「そもそも二刀流とは(リスクも背負う)そういうものでしょう」と腹をくくっていた。
では大谷の脚力はどれほど優れたものなのか?楽天監督・梨田昌孝に敵の立場から聞いてみた。
「速いよ。スタートはそんなに速いとは思わないが加速するにつれスピードが増していく。投げる、打つ、走る。どれをとってもけた違いだね」と大絶賛だ。
手元に日本ハムの快速選手の本塁から一塁への到達タイムがある。一昨年の盗塁王である西川遥輝が3秒81、昨年の盗塁王・中島卓也は3秒98。これに対して大谷は3秒80。もう少し興味ある数字を紹介しよう。本年2月に大リーグ公式サイトで明らかにされた42歳のイチロー(マーリンズ)の計測タイムは3秒98でメジャー全選手の中で5番目の快速だという。
今季のペナントレースはスピード野球が席巻した。広島に田中広輔、菊池涼介、丸佳浩らあり。ソフトバンクに目を転じても故障離脱中ではあるが柳田悠岐や本田雄一らの走れるタレントがいる。緊迫した紙一重の戦いほど走力や守備力が勝敗を決するケースは多い。
投げて打っては今や当たり前だが「韋駄天・大谷」の走力にも要チェックである。
文=荒川和夫(あらかわかずお)