【こだわりのフロントトスバッティング】
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このチームの練習で一番特徴的だったのはトスバッティングです。トスバッティングというと打者の斜め前方からトスされたボールをネット中央に向かって打つ光景がお馴染みですが、ここではバッターの前、ピッチャー方向からネットに隠れたお父さんがトス(フロントトス)するボールをネットの上部に向かって打っていました。斜め前方からトスされたボールを打たないのは「リストターンをさせたくない」という考えがあるからだと河原監督は言います。
斜め前から飛んでくるボールをネットの中央を狙って強く叩こうとすれば、どうしてもインパクトで手首を返してヘッドを走らせようとしてしまいます。これが「リストターン」ですが、その癖がついてしまうとスイングの軌道が水平ではなく波を打つ形となるので当然打ち損じが増えてしまいます。また、斜め前からトスされるボールは打てるポイントが1点しかないわけですから、当然ヒットが打てる可能性も低くなってしまいます。実際、アメリカでトスバッティングと言えばフロントトスが一般的です。
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フロントトスされたボールもただ打つだけではなく、スイングにも次のようなドリルがありました。
①体を開いて上半身を使って打つ
②足をスクエアにしてノーステップで打つ(下半身、股関節を使って打つ)
③上記①②を意識して普通に打つ
そのスイングの軌道も他の多くの少年野球チームとはかなり異なっており、バットを水平ではなく縦に出して振り上げる、いわゆる「縦ぶり」の軌道を意識して打っていました。「このスイングは4、5年前から指導していましたが、当時は上手く子ども達に教えることができませんでした」。そんな河原監督が教えを請うたのは、プロ野球選手もお忍びで指導を仰ぐ、日本人初の3A野手でもある根鈴雄次氏。根鈴氏がバッティング指導を行う『根鈴道場』で縦ぶりの理論を自ら学び、それを子ども達に分かるようにチームに落とし込んで指導をしています。
縦ぶりを取り入れたからホームランが増えたという単純な話でありませんが、「ゴロが明らかに減りましたし簡単に三振しなくなりました」と河原監督はその効果を話します。
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このチームには「全員に年間100打席打たせる」という決まり事があるように、全力で勝利を目指しながらも指導陣は子ども達の成長、将来にも目を向けた指導が行われていました。アメリカ式指導の良さを積極的に取れ入れながらも、礼儀や挨拶、マナーなど日本の少年野球文化も大事する。グラウンドを訪れてみて「ベースボール」と「野球」のハイブリッドチーム。そんな印象を受けました。そんなチームから巣立っていった子ども達のこれからに注目してみたいと思います。(取材・写真:永松欣也)