リーグ最低打率・得点でも首位 巨人の強さは「足」にあり
巨人が強い。シーズン大詰めの9月に入り9勝3敗(9月14日終了時点)。しかも、上位の広島、阪神はそれぞれ3タテで下した。勝負どころを分かった上で、かつ絶対に落とさない。今季、0.5ゲーム差に迫る阪神が幾度首位奪取に挑もうとも、巨人はそのたびにはねのけてきた。まさに優勝の仕方を知っているチームである。
ただ、今季の巨人は、投打問わずあらゆるデータで上位を占め独走した昨季とは別のチームである。どうしても強力打線のイメージがついて回る巨人だが、今季のチーム打率、得点はいずれもリーグ最低だ。それでも首位に立つ。その要因の一つはチーム防御率リーグ1位の投手陣であることは間違いないが、今季のそつのない勝ち方には「足」が大きく影響している。
巨人の90盗塁はすでに昨季のシーズン盗塁数に並んでおり、足でも魅せる「菊丸コンビ」擁する広島をかわしリーグ1位である。それぞれ20盗塁を記録している片岡治大、坂本勇人のほか、忘れてはならないのが足のスペシャリスト・鈴木尚広だ。
少ないチャンスをものにする そつない試合運びでVロードへ!
9月10日の阪神戦、鈴木の足が、今季の巨人を象徴するような試合を演出した。この日、40日ぶりに一軍復帰した先発・菅野智之は立ち上がりに1失点。追加点が欲しい阪神は6回裏に先頭のマウロ・ゴメスが三塁打で出塁したものの、続く新井貴浩、福留孝介、伊藤隼太が凡退。無策のまま無死三塁のチャンスをみすみす潰してしまった。
一方の巨人。7回表に井端弘和のソロ本塁打で追いつき、続く8回表に先頭の長野久義が左前安打で出塁すると、すかさず代走に鈴木を送り出す。打者・橋本到の場面で、結果的に送りバントという形になったが、鈴木は完璧なスタートを切っていた。
すると、続く打者・坂本の場面でも鈴木はスタート。坂本の当たりはショート強襲安打となり、あきれるほどあっさりと勝ち越し点を奪い取ってしまったのだ。盗塁こそ記録されていないが、阪神側は間違いなく「足で取られた」と感じたはずだ。
近年は出場試合数や打席に立つ機会こそ減っている鈴木だが、ここぞの場面での代走には絶対に欠かせない。後続打者の打撃にも左右され、一般的に注目されることのない数字ではあるが、今季、代走・鈴木の本塁生還率はなんと5割を超えている。しかもそのほとんどがゲーム終盤の勝負の場面。ただの得点ではなく、勝利そのものをもぎ取っているのだ。
過去、登場するだけで相手球団ファンに絶望感を与える絶対的守護神は何人もいたが、代走で登場して同様の絶望感を味わわせる選手など、鈴木以外にいないのではないだろうか。打線が振るわない今季だからこそ、少ないチャンスをものにする鈴木の存在感がますます増している。
その巨人は、9月15〜17日、敵地で再び2位広島と相まみえる。相手のお株を奪う“走る野球”を見せつけ、巨人が胴上げに向かって加速する。
文=清家茂樹(せいけ・しげき)