橋本清が素朴な疑問に答えます ~第1回~
「マウンドにナインが集まるときって、いったい何を話してるの?」
よくピンチの時に目にする光景ですよね。打たれた投手のところに野手が集まって、何やらひそひそ話。
ここでの話は、「リラックスさせるために冗談を言ったりしてる」だとか、「今晩の飯の話をしてる」とか諸説ありますが...実は、どれも正解なんです。
でも、そんな冗談をいう選手は稀です。だいたいの野手は投手を冷静にさせるため、集中力を高めるための言葉をかけますね。
野手が集まるって言う状況は、もはや投手は「我を失っている」状態ですから、いったん間を開けて、とにかく落ち着かせる。そういう意味合いで集まることが一般的ですよね。
怒るも良し、褒めるも良し
それでも、そこは人間ですから、その人によって声のかけ方は違うんですよ。
たとえば、原さん(原辰徳)なんかは優しく「ハシ、いいボールいってるぞ。腕もふれてるねー、いいねー」なんて感じで、すごく勇気を与えてくれる言葉をかけてくれたなぁ。
ファーストを守っていた落合さん(落合博満)は、僕が打たれたときなんかはシンプルですけど、「どした?がんばれ」と、無表情で一言。「試合終わったら飯行くか」なんて野球と関係ないことを話してたのは、岡崎さん(岡崎郁)かな。
ほかにも、捕手だけがマウンドに行くこともありますよね。グラブを口元において、相手に悟られないように話すのですが、この時も人それぞれです。
以前、巨人の阿部慎之助がマウンドに行って沢村拓一を叩いたことがありましたけど、あれも沢村のことをよく知ってる阿部だからこそ、あの行動をとったのだと思います。
僕の時は、村田真一さんなんかは逆球投げても怒らずに「俺が悪かった」って謝るんですよ。それで逆に、しっかり投げなきゃって気持ちになりましたね。デーブさん(大久保博元)なんかは、「お前、しっかり投げろよ」って感じでした。
とにかく、ああいう場面は投手が“テンパっている”状態ですから、そこに集まった野手たちは「いかに投手を冷静にさせられるか」がテーマ。もう1回集中させるための大事な“間”なんです。
マウンド上で孤独な投手というのは、弱気になったり、いろいろ考えて迷っている状態ですから。投手の性格を考えて、怒るのも良し、褒めるのも良し。
ただ、あまり野球に関係のない、女の話とかはあまり効果が無いと思いますよ(笑)
文=橋本清(はしもと・きよし)