稀代のスラッガーが引退
151試合に出場。打率.315、38本塁打、127打点――。
これだけの成績を残しながら、今シーズン限りでユニフォームを脱ぐ男がいる。ボストン・レッドソックスの主砲デービッド・オルティスである。
本塁打王が1回に、打点王は3回。世界一には3度輝き、ワールドシリーズMVPも受賞。2000年代以降のメジャーリーグを代表する最強スラッガーのひとりであった。
40歳を迎えた今シーズンも、3年ぶりとなる打率3割をクリアし、127打点はなんとリーグトップ。本塁打38もここ9年間で最多の数であり、4年連続で30発&100打点を達成した。
極めつけは、メジャートップのOPS1.021という驚異の数字。最後まで名実ともにメジャー最強打者としての輝きを保ったまま、お別れの時を迎えた。
花道を自分で作った40歳
オルティスが引退の意向を表明したのは、昨年11月のこと。自身の40歳の誕生日であった11月18日(現地時間)に動画で報告し、ファンには「来年たのしもう!」と呼びかけた。
ボストンだけでなく、全米から愛された男には、行く先々で引退のセレモニーが用意されていた。その球場でのラストゲームとなれば、敵味方関係なく選手もファンもオルティスを祝福。遠征ごとに行われるセレモニーに対して、「疲れてしまうよ」と本音が漏れることもあった。
それでも、そんな多忙なスケジュールの中でも、男はしっかりと成績を残していく。
40歳ながらチームの主軸を張り、打撃各部門でリーグの上位に名前を載せる。「本当に今年で辞める選手なのか?」という声が挙がるのも当然のことであった。
後輩たちに花道を用意してもらうのではなく、自ら花道を作り出すように、チームを牽引。結果、チームを3年ぶりの地区優勝へと導いた。
最後までチームを引っ張った“ビッグ・パピ”
ところが、プレーオフでは地区シリーズで敗退。中地区王者・インディアンスの前に3連敗を喫した。
現地時間10月10日に行われた地区シリーズの第3戦、最後の打席は四球。劣勢の展開の中、一塁ベース上で観客に「もっと盛り上げろ」と言わんばかりに両手を挙げ、球場の空気を変えた。ハンリー・ラミレスに反撃のタイムリーが飛び出したのは、その直後のことだ。
打席でも、塁上でも、そしてベンチからも声を張り上げ、チームを鼓舞し続けたオルティス。しかし、最後まで1点の差が遠かった。
敗退決定と同時に、訪れた別れの時。歓喜に湧くインディアンスナインを横目に、本拠地ボストンのファンは悲しみに暮れた。
グラウンドから人がいなくなっても、スタンドから人が引くことはなかった。しばらくすると、“主役”がベンチから登場。大勢の報道陣を引き連れ、マウンドで帽子を取って最後の挨拶。その光景を目に焼き付けるようにして360度を見渡すと、決心したようにベンチへ。その目からは光るものが溢れていた。
誰からも愛された“ビッグ・パピ”。ボストンの偉大な背番号「34」に改めて敬意を表したい。
▼ デービッド・オルティス
[今季成績] 151試 率.315 本38 点127 OPS1.021
[通算成績] 2408試 率.286 本541 点1768 OPS.931